節税提案の進め方|順序・利益規模別の型・否認されない線引き

顧問先から「もっと節税できないか」と言われるたびに、思いつく打ち手を並べて説明している。相手は納得した顔をするものの、実行にはつながらない。提案のネタは持っているのに、なぜ動いてもらえないのかが分からないまま、決算期がまた来る。
動かない提案には共通点があります。順序が示されていないことです。打ち手を並べるだけでは、どれから手を付ければよいか判断できません。納税資金の確保を起点に、現金が出ない対策、制度活用、現金が出る対策という順で並べ直すと、相手は決められるようになります。
この記事でわかること
- 提案が実行されない理由と、順序で解決する考え方
- 提案の前に必ず確認する3つの前提
- 利益規模別に提案が変わる理由と、規模ごとの型
- 現金が出ない対策から出すべき理由
- 節税・租税回避・脱税の線引きと説明の仕方
- 節税商品を扱うときの税理士法と保険業法の線引き
提案が動かない理由|中身ではなく順序

提案の質は打ち手の数では決まりません。相手が意思決定できる形になっているかどうかで決まります。
打ち手の羅列は判断材料にならない
10個の打ち手を並べても、どれから手を付けるかを決められなければ実行されません。
経営者が知りたいのは「何ができるか」ではなく「今年は何をやるべきか」です。選択肢が増えるほど決定は遅れます。
提案書に20の手法を載せるより、3つに絞って順番を付けたほうが動きます。
順序の基準は現金の出入り
並べ替えの軸はその打ち手で現金が出ていくかどうかです。
現金が出ない対策は、資金繰りを傷めずに所得を下げられます。まずここを潰し切ってから、現金が出る対策に進みます。
この順序を先に共有しておくと、「共済に入りましょう」という提案が唐突に見えなくなります。
納税資金の確保を提案の起点に置く
最初に示すべきなのは打ち手ではなく、今期の納税見込み額と、その資金があるかどうかです。
納税額が見えていない状態で節税策を並べても、経営者は判断できません。まず着地見込みと納税額を出し、資金の余力を確認します。
余力がないなら、その年は現金が出る対策を見送るという結論も提案のうちです。何もしないことを勧められる相手は信頼されます。
打ち手を並べた一覧表より、順序と判断基準を1枚にまとめたほうが実行率は上がります。一覧は資料の後ろに回してください。
提案の前に確認する3つの前提

この3点を押さえずに提案すると、後で説明が食い違います。
その打ち手は本当に減るのか、先送りなのか
多くの節税策は税額が消えるのではなく時期を移しているだけです。
即時償却は翌期以降の償却費を先に使う仕組みです。共済の掛金は解約時に益金として戻ります。通算では税額はほぼ変わりません。
通算でも減るのは、退職所得控除のように課税方法が変わるものや、税額控除のように税額そのものを減らすものに限られます。ここを区別して説明すると信頼されます。
出口の年を先に決める
繰り延べ型の打ち手は、解約や取り崩しの年を決めてから入るものです。
共済の解約手当金は受け取った期の益金です。役員退職金の支給年に合わせるなど、大きな損金が立つ年に重ねる設計が定石になります。
出口を決めずに入ると、数年後に想定外の利益が立ちます。提案の時点で出口を書いておくと、後任の担当者にも引き継げます。
使える制度に期限があるか確認する
制度活用型の提案は、期限と準備期間が実行可否を決めます。
中小企業経営強化税制は令和9年3月31日までの取得が対象です。少額減価償却資産の特例は令和11年3月31日まで、対象は40万円未満で合計300万円までに拡充されています。
決算3か月前を切ってから認定が必要な制度を目指すのは現実的ではありません。期限と社内のリードタイムを合わせて示してください。
| 打ち手 | 性質 | 出口 |
|---|---|---|
| 役員退職金 | 通算でも減る | 受け取る側は退職所得 |
| 税額控除 | 通算でも減る | ― |
| 即時償却 | 繰り延べ | 翌期以降の償却費が減る |
| 経営セーフティ共済 | 繰り延べ | 解約手当金が益金 |
| 前倒し費用の計上 | 繰り延べ | 翌期の損金が減る |
決算3か月前を切ってから認定が必要な制度を目指すのは現実的ではありません。期限と社内のリードタイムを合わせて示してください。
利益規模別|提案の型が変わる理由

同じ打ち手でも、所得の水準で効果がまったく違います。ここを説明できるかどうかが提案の説得力を分けます。
所得800万円が最初の境目
中小法人の法人税率は年800万円以下が15%、超える部分が23.2%です。
地方法人税は法人税額の10.3%なので、国税ベースでは約16.5%と約25.6%になります。同じ100万円の損金でも、効果は1.5倍以上違います。
所得800万円以下の顧問先に、大きな会社の事例をそのまま持っていくと期待値がずれます。まず自社の帯を示してから金額を出してください。
所得800万円以下は現金を守る提案
この層では、現金の出ない打ち手と少額の共済に絞るのが現実的です。
計上漏れの拾い出し、除却、40万円未満の資産整理で足りることが多くあります。ここで無理に設備投資を勧めると資金繰りが傷みます。
経営者個人の小規模企業共済を並行して提案すると、会社の損金にはなりませんが本人の所得控除として効きます。
所得3,000万円を超えると制度活用が効く
この層からは、設備投資と制度活用の効果が金額として見えるようになります。
所得3,000万円の会社が2,000万円を即時償却すれば、国税ベースで約511.8万円の差が出ます。準備期間を確保できるなら提案する価値があります。
所得5,000万円を超え、代表交代の予定があるなら役員退職金が最も大きな打ち手になります。株価が下がるため事業承継の設計と組み合わせられます。
| 所得の水準 | 提案の軸 | 注意点 |
|---|---|---|
| 800万円以下 | 計上漏れ・除却・少額資産・小規模企業共済 | 現金が出る対策は慎重に |
| 800万〜3,000万円 | 経営セーフティ共済・少額資産の整理 | 出口の年を決めてから |
| 3,000万〜5,000万円 | 設備投資と制度活用 | 準備期間を6か月確保 |
| 5,000万円以上 | 役員退職金・事業承継の設計 | 適正額の説明を用意 |
所得5,000万円を超え、代表交代の予定があるなら役員退職金が最も大きな打ち手になります。株価が下がるため事業承継の設計と組み合わせられます。
現金が出ない提案から先に出す

提案の第一弾は、必ず現金が出ないものから始めます。ここで信頼を作ってから、現金が出る話に進みます。
債務が確定している費用を拾う
決算日までに債務が確定していれば、支払いが翌期でも当期の損金になります。
未払給与、社会保険料の会社負担分、未払家賃、決算日までに役務提供が終わっている外注費などが対象です。現金は出ていきません。
顧問先の担当者に「請求書が来ていないから計上していない」という判断が残っていることがあります。ここは事務所側から確認しないと拾えません。
使っていない資産を除却する
帳簿に残っている使用していない固定資産を処分すれば除却損が立ちます。
現物がないのに簿価が残っているケース、稼働を止めたまま置いてある機械などが典型です。固定資産台帳と現物の突合を提案に含めてください。
処分の事実を示す書類が必要です。廃棄証明やスクラップ業者の伝票を残すよう伝えます。
40万円未満の資産を枠内で整理する
中小企業者等は40万円未満の減価償却資産を合計300万円まで即時償却できます。
従来の30万円未満から拡充されています。適用期限は令和11年3月31日まで、中小企業者は従業員400名以下が対象です。
もともと予定していた小さな投資をこの枠に収める形なら、無駄な支出になりません。新規購入を促す提案とは性質が違います。
もともと予定していた小さな投資をこの枠に収める形なら、無駄な支出になりません。新規購入を促す提案とは性質が違います。
制度活用の提案|期限と準備期間で決まる

制度は使えるかどうかより、間に合うかどうかで結論が変わります。
認定が必要な制度は半年前から
中小企業経営強化税制は、証明書の取得と経営力向上計画の認定が前提です。
メーカーへの証明書依頼と認定申請にそれぞれ日数がかかり、そのうえで取得と事業供用を期末までに終える必要があります。半年前から動くのが安全です。
決算3か月前を切って相談を受けたら、間に合わない可能性を先に伝えてください。無理に走らせて要件を落とすほうが損害になります。
即時償却と税額控除を数字で並べる
同じ設備でも、初年度の金額なら即時償却、通算なら税額控除が有利になります。
税額控除は取得価額の7%(資本金3,000万円以下は10%)で、調整前法人税額の20%が上限です。所得が小さい顧問先ほど上限に当たります。
どちらを選ぶかは、その年の資金繰りと翌期以降の利益見通しで決まります。両方の数字を出して選んでもらう形にすると、決定が速くなります。
共済は出口とセットで提案する
経営セーフティ共済は掛金月額20万円まで、掛金総額800万円が上限です。
年240万円まで前納でき、40か月以上納めれば自己都合の解約でも全額戻ります。ただし解約手当金は受け取った期の益金です。
令和6年10月1日以降に解約して再加入した場合、解約の日から2年を経過する日までに支出する掛金は損金になりません。解約と再加入を繰り返す提案は成り立たなくなっています。
令和6年10月1日以降に解約して再加入した場合、解約の日から2年を経過する日までに支出する掛金は損金になりません。解約と再加入を繰り返す提案は成り立たなくなっています。
否認されない線引き|節税・租税回避・脱税

顧問先に説明を求められたときに、言葉で区別できるようにしておく必要があります。
事業目的があるかどうかが分かれ目
税負担を減らす効果があっても、事業上の目的があるかどうかで評価が変わります。
必要な設備を入れて即時償却するのは節税です。使う予定のない資産を期末に買って翌期に売るのは、事業目的を説明できません。
提案の段階で「なぜこの投資が必要か」を経営者の言葉で言えるかを確認してください。言えないなら提案を取り下げるほうが安全です。
同族会社の行為計算否認を想定しておく
同族会社の取引は、税負担を不当に減少させると認められる場合に否認されることがあります。
役員報酬や退職金の過大部分、関連会社間の取引価格などが典型です。金額の根拠を残しておくことが実務上の防御になります。
役員退職金なら功績倍率法による計算過程と株主総会の議事録、関連会社取引なら第三者との取引条件との比較を保存します。
事実と書類を先に作る
後から辻褄を合わせるのではなく、実行の前に書類の型を決めておくことです。
議事録、契約書、稟議、稼働記録、写真。何を残すかを提案書に書いておくと、顧問先は迷わず動けます。
税務調査で問われるのは書類そのものより、その取引が実際にあったかどうかです。書類は事実を裏付ける手段として位置づけます。
| 区分 | 内容 | 評価 |
|---|---|---|
| 節税 | 制度の趣旨に沿って要件を満たす | 問題なし |
| 租税回避 | 形式は満たすが事業目的の説明が弱い | 否認される可能性 |
| 脱税 | 事実を仮装または隠蔽する | 重加算税・刑事罰 |
経営者が事業目的を自分の言葉で説明できない打ち手は提案しないでください。実行後に説明責任を負うのは顧問先です。
節税商品を扱うときの法的な線引き

提案の幅を広げるために外部の商品を扱う場合、事前に整理しておくべき点があります。
税理士業務は税理士でなければ行えない
税理士法により、税理士でない者は税理士業務を行ってはならないと定められています。
税務代理、税務書類の作成、税務相談が税理士業務です。事務所の職員や提携先が個別の税務判断を伝える形にならないよう、役割を分けておく必要があります。
商品の説明と税務判断は別物です。誰がどこまで話すかを、提携の段階で文書にしておくとトラブルを避けられます。
保険の募集には登録が必要
保険業法により、保険募集は登録を受けた募集人等でなければ行えません。
保険を組み込んだ提案をする場合、募集行為に当たるかどうかの線引きが必要です。一般的な情報提供にとどめるのか、募集人として関与するのかで手続きが変わります。
紹介にとどめて手数料を受け取る形にする場合も、その内容が募集に当たらないかを個別に確認してください。
紹介・情報提供・販売を区別する
同じ「取り扱う」でも、紹介・情報提供・販売では必要な手続きが違います。
情報提供は制度や商品の一般的な説明にとどめる形です。紹介は見込み客をつなぐ形、販売は自ら契約手続きに関与する形です。
どの形を選ぶかで、必要な登録や届出、受け取れる報酬の性質、そして負う責任が変わります。始める前に整理してください。
| 形態 | 主な内容 | 確認すべき点 |
|---|---|---|
| 情報提供 | 制度や商品の一般的な説明 | 個別の税務判断に踏み込まない |
| 紹介 | 見込み客を提携先につなぐ | 募集行為に当たらないか |
| 販売 | 自ら契約手続きに関与 | 必要な登録・届出 |
どの形を選ぶかで、必要な登録や届出、受け取れる報酬の性質、そして負う責任が変わります。始める前に整理してください。
出典: e-Gov法令検索「税理士法」
法令の適用は個別の事情で変わります。実際に取り扱いを始める前に、所属税理士会や監督官庁、弁護士に確認してください。
提案を仕組みにする|年間サイクルで回す

決算前だけ提案する形では、間に合う打ち手が限られます。年間の型に落とすと提案の幅が広がります。
期首に年間の見通しを作る
期首の面談で、その期に検討する制度の候補を洗い出しておくと後が楽になります。
設備投資の予定、代表交代の可能性、共済の加入状況をこの時点で確認します。認定が必要な制度は、この段階から動き始めないと間に合いません。
顧問先ごとにチェックリストを持つと、担当者が代わっても抜けが出ません。
中間で着地見込みを固める
決算の3〜4か月前に、利益の着地見込みと納税額を提示します。
この時点で金額が見えると、経営者は資金の余力を判断できます。現金が出る対策をやるかどうかの分岐点です。
見込みが外れることを恐れて出さないより、幅を持たせて出すほうが役に立ちます。
決算後に振り返りを残す
申告が終わったら、実行した打ち手と出口の年を記録に残します。
共済の解約予定年、即時償却で消えた償却費、退職金の支給実績などを1枚にまとめておくと、翌期以降の提案が具体的になります。
この記録があると、担当者の交代や相続の相談が来たときに、過去の設計を踏まえた提案ができます。
節税提案に関するよくある質問

実務へ落とし込むときに、相談として多く寄せられる論点をまとめます。
提案しても実行されないのはなぜですか?
原因は順序が示されていないことです。
順序が示されていないためです。打ち手を並べるだけでは、どれから手を付ければよいか判断できません。納税額の提示と資金の余力確認を起点に、現金が出ない対策、制度活用、現金が出る対策という順で並べ直すと決定が進みます。
利益規模で提案を変える必要はありますか?
所得の帯で効果が1.5倍以上変わります。
あります。中小法人の法人税率は年800万円以下が15%、超える部分が23.2%なので、同じ損金でも効果が1.5倍以上違います。所得800万円以下の顧問先に大きな会社の事例を持っていくと期待値がずれます。
決算間際に相談を受けたらどうしますか?
間際なら現金が出ない打ち手に絞ります。
認定が必要な制度は間に合わない可能性を先に伝えてください。そのうえで、未払費用の計上、不要資産の除却、貸倒れの検討など現金が出ない打ち手に絞ります。無理に走らせて要件を落とすほうが損害になります。
節税と租税回避の違いをどう説明しますか?
分かれ目は事業目的を説明できるかです。
事業上の目的を説明できるかどうかです。必要な設備を入れて即時償却するのは節税ですが、使う予定のない資産を期末に買うのは事業目的を説明できません。経営者が自分の言葉で必要性を言えるかを確認してください。
節税商品を紹介して手数料を受け取れますか?
形態ごとに必要な手続きが変わります。
形態によって必要な手続きが変わります。情報提供・紹介・販売では、必要な登録や届出、受け取れる報酬の性質、負う責任が違います。保険を含む場合は保険業法の募集規制、税務判断に踏み込む場合は税理士法の制限を確認する必要があります。個別の可否は所属税理士会や監督官庁に確認してください。
繰り延べ型の提案は避けるべきですか?
繰り延べ型は出口の年を決めてから提案します。
避ける必要はありませんが、出口の年を決めてから提案してください。共済の解約手当金は受け取った期の益金になるため、退職金の支給など大きな損金が立つ年に重ねる設計が基本です。出口を書かない提案は、数年後に問題を作ります。





