経営強化税制の飲食店事例|厨房機器と空調で減る税額を試算

厨房機器の入れ替えと空調の更新を同じ年にやる必要があるが、資金が重い。経営強化税制で即時償却できると聞いたものの、飲食店が対象になるのか、内装工事やリースはどう扱われるのかが分からず、資金計画を固められないまま見積書だけが溜まっている。
飲食店業は指定事業に含まれるので、要件を満たせば使えます。ただし対象になるのは新品の設備で、器具備品は30万円以上、建物附属設備は60万円以上という金額基準があります。所有権移転外リースで導入すると即時償却は使えず、税額控除しか選べません。
この記事でわかること
- 飲食店業が指定事業に含まれることと、除外される業態
- 厨房機器・空調・POSがどの設備類型に当たるか
- 1店舗(所得600万円)のモデルケースで減る国税
- 3店舗(所得2,000万円)のモデルケースで減る国税
- リースで導入すると即時償却が使えない理由
- 内装工事のうち対象になる部分とならない部分
飲食店は対象になるか|指定事業の位置づけ

まず前提の確認です。飲食店業は指定事業に含まれており、制度そのものは使えます。ただし業態によって扱いが分かれます。
料理店業その他の飲食店業は指定事業
指定事業には小売業、料理店業その他の飲食店業、宿泊業などが含まれます。
製造業や建設業だけの制度ではありません。店舗を構えて飲食を提供する事業は、原則としてこの枠に入ります。
ただし料亭やバーなど一部の業態は、同業者団体の組合員である場合に限られる扱いがあります。自店がどこに当たるかは、事業の実態で判断します。
除外される事業がある
娯楽業(映画業を除く)と性風俗関連特殊営業は指定事業から除かれます。
飲食を提供していても、実態が娯楽業や性風俗関連特殊営業に当たる場合は対象外です。定款の記載ではなく実際の営業内容で判定されます。
また設備の用途として、管理を他者に委託するコインランドリー業と暗号資産マイニング業は除かれています。
認定を受けた中小企業者であることが前提
青色申告書を提出し、中小企業等経営強化法の認定を受けた中小企業者等であることが必要です。
資本金1億円以下、または従業員1,000人以下の法人が中小企業者に当たります。個人事業のままでも適用できますが、この記事では法人を前提に試算します。
税額控除率は資本金3,000万円以下なら10%、それを超えると7%です。飲食店の多くは10%の枠に入ります。
税額控除率は資本金3,000万円以下なら10%、それを超えると7%です。飲食店の多くは10%の枠に入ります。
法人税(年800万円以下15%/超える部分23.2%)と地方法人税(法人税額の10.3%)だけで計算しています。法人住民税と事業税は自治体や規模で異なるため含めていません。資本金3,000万円以下で青色申告、中小企業等経営強化法の認定を受けた中小企業者を前提にしています。
飲食店で対象になりやすい設備

どの類型に当たるかで金額基準が変わります。飲食店で出てくる設備を整理します。
厨房機器は器具備品で30万円以上
業務用冷蔵庫やオーブン、食洗機などは工具・器具・備品として1台30万円以上が基準です。
金額のハードルが低いため、飲食店でいちばん使いやすい枠です。1台または1基あたりで判定するので、複数台を合算することはできません。
30万円に届かない小型機器は、少額減価償却資産の特例で処理する方向になります。
空調やダクトは建物附属設備で60万円以上
店舗の空調設備や換気設備は建物附属設備として1基60万円以上が基準です。
飲食店の空調と排気は容量が大きく、金額基準を超えやすい部分です。老朽化した設備の更新を検討しているなら、この枠に収まるか確認する価値があります。
建物本体そのものは扱いが違います。内装工事のうち建物附属設備に当たる部分だけが対象で、造作全体が対象になるわけではありません。
POSや予約システムはソフトウェアで70万円以上
予約管理や在庫管理のシステムは、ソフトウェアとして70万円以上が基準です。
ハードウェアとソフトウェアが一体の場合、契約や請求の内訳で判定が変わることがあります。見積段階で内訳を分けてもらうと判断しやすくなります。
月額利用料のクラウドサービスは資産の取得に当たらないため、この制度の対象外です。
| 飲食店の設備 | 類型 | 最低取得価額 |
|---|---|---|
| 業務用冷蔵庫・オーブン・食洗機 | 工具・器具・備品 | 30万円以上 |
| 空調・換気・給排水設備 | 建物附属設備 | 60万円以上 |
| 予約・在庫管理システム | ソフトウェア | 70万円以上 |
| 大型の製造ライン設備 | 機械装置 | 160万円以上 |
事例1|1店舗で厨房機器とPOSを入れ替える

従業員6名、資本金500万円、所得600万円の1店舗経営。開業から8年が経ち、厨房機器200万円とPOS周辺の器具備品80万円を入れ替えるという前提です。
所得600万円が320万円に下がる
合計280万円を損金にすることで、国税ベースで約46.3万円減ります。
対策前は法人税90.0万円と地方法人税9.3万円で合計99.3万円。対策後は法人税48.0万円と地方法人税4.9万円で合計52.9万円です。
所得が800万円以下に収まっているため、削られた280万円はすべて15%の帯です。国税ベースの実質率は約16.5%にとどまります。
税額控除は18万円までしか使えない
取得価額の10%なら28万円ですが、上限は調整前法人税額の20%で18万円です。
残る10万円は翌期に繰り越します。所得600万円の規模では、税額控除の枠を使い切れません。
この規模なら即時償却を選ぶほうが素直です。今期の納税を抑えて、入れ替えで出ていく現金の穴を少しでも埋める形になります。
小規模ほど効果の絶対額は小さい
同じ280万円でも、所得800万円以下の帯では効果が15%分にとどまります。
所得が大きい会社の事例で見た「約25.6%」の感覚で計算すると、実際の減税額を1.5倍ほど過大に見積もることになります。
設備の入れ替えは必要だから行うものです。減税額は判断材料の一つにすぎません。
| 項目 | 対策前 | 即時償却280万円 |
|---|---|---|
| 所得金額 | 600万円 | 320万円 |
| 法人税 | 90.0万円 | 48.0万円 |
| 地方法人税 | 9.3万円 | 4.9万円 |
| 国税合計 | 99.3万円 | 52.9万円 |
| 差額 | ― | 約46.3万円の減少 |
所得800万円以下なら即時償却が現実的です。税額控除は上限20%に当たって使い切れないことが多くなります。
事例2|3店舗で空調と厨房をまとめて更新する

従業員28名、資本金1,000万円、所得2,000万円の3店舗経営。空調2基で360万円、厨房機器240万円、予約管理システム100万円の合計700万円を投じるという前提です。
所得2,000万円が1,300万円に下がる
合計700万円を損金にすることで、国税ベースで約179.1万円減ります。
対策前は法人税398.4万円と地方法人税41.0万円で合計439.4万円。対策後は法人税236.0万円と地方法人税24.3万円で合計260.3万円です。
削られた700万円はすべて23.2%の帯にあるため、国税ベースで約25.6%が効いています。
この規模なら税額控除も満額使える
取得価額の10%で70万円、上限は調整前法人税額の20%で79.7万円です。
上限に余裕があるため、70万円を当期に使い切れます。繰り越しは発生しません。
即時償却の179.1万円と比べると小さく見えますが、税額控除は通常の減価償却を続けながら税額そのものを減らす取り切りです。数年で見れば差は縮まります。
店舗展開の予定があるなら税額控除も選択肢
翌期以降も安定して利益が出る見込みなら、償却費を残せる税額控除に合理性があります。
即時償却を選ぶと、この700万円分の償却費は翌期以降なくなります。次の出店で利益が伸びる局面では、損金が減った状態で課税されることになります。
逆に出店で現金が出ていく年が続くなら、今期の納税を抑える即時償却を選ぶ判断もあります。
| 項目 | 対策前 | 即時償却700万円 | 税額控除を選択 |
|---|---|---|---|
| 所得金額 | 2,000万円 | 1,300万円 | 通常償却後の所得 |
| 法人税 | 398.4万円 | 236.0万円 | 控除70万円を差し引く |
| 地方法人税 | 41.0万円 | 24.3万円 | ― |
| 国税合計 | 439.4万円 | 260.3万円 | ― |
| 当期の効果 | ― | 約179.1万円の減少 | 70万円の税額控除 |
リースで入れると即時償却が使えない

飲食店では厨房機器をリースで導入する例が多くあります。ここが判断を分けます。
所有権移転外リースは特別償却が使えない
所有権移転外リース取引で取得した設備は、特別償却の規定は適用できず、税額控除だけが使えます。
即時償却は特別償却の一種なので、リースで導入した設備では選べません。今期の納税を大きく抑えたいなら、購入で入れる必要があります。
税額控除は使えるため、制度がまったく無関係になるわけではありません。
現金を出さずに設備を入れるならリース
手元資金を減らしたくないなら、リースで導入して税額控除を取る組み立てになります。
購入なら現金が出ていく代わりに即時償却が使えます。リースなら現金は分散しますが即時償却は使えません。どちらを取るかは資金繰り次第です。
リース料は支払時に損金になるため、長い目で見れば費用として落ちていきます。
中古と貸付用は対象外
対象はその製作の後事業の用に供されたことのない新品の設備に限られます。
中古の厨房機器を安く仕入れて入れ替える場合、この制度は使えません。金額基準を満たしていても対象外です。
また貸付けの用に供する資産も特定経営力向上設備等に該当しません。他店に貸し出す前提の機器は対象になりません。
| 導入方法 | 即時償却(特別償却) | 税額控除 |
|---|---|---|
| 購入(新品) | 使える | 使える |
| 所有権移転外リース | 使えない | 使える |
| 中古設備の購入 | 使えない | 使えない |
| 貸付用の設備 | 使えない | 使えない |
また貸付けの用に供する資産も特定経営力向上設備等に該当しません。他店に貸し出す前提の機器は対象になりません。
手続き|証明書を取るルートと確認を受けるルート

経営力向上計画の認定を受けるまでに、設備が要件を満たすことを示す書類が必要になります。飲食店では取り方が2通りあります。
メーカーから証明書をもらうルート
設備メーカーを通じて工業会等の証明書を取得するのが基本のルートです。
一定期間内に販売されたモデルで、生産性が旧モデルより向上していることを証明してもらう形です。厨房機器や空調は該当するモデルが用意されていることが多く、取りやすい部類に入ります。
依頼から発行まで日数がかかります。見積を取る段階でメーカーに証明書の可否を確認しておくと、後の段取りが楽になります。
投資計画で経済産業局の確認を受けるルート
証明書が取れない設備でも、投資計画について経済産業局の確認を受ける方法があります。
投資による収益改善の見込みを数値で示し、公認会計士または税理士の事前確認を経て申請します。手間はかかりますが、証明書のない設備でも道が開けます。
こちらのルートは、申請から確認書の交付までにさらに時間を見ておく必要があります。
認定は原則として取得前に受ける
経営力向上計画の認定は、設備を取得する前に受けておくのが原則です。
取得後に申請できる例外的な取扱いもありますが、期限が短く余裕がありません。順序を守るほうが確実です。
申告では、償却限度額の計算に関する明細書に加えて、認定申請書の写しと認定書の写しを添付します。
飲食店で外しやすい落とし穴

店舗改装のタイミングで話が出ることが多い制度です。飲食店特有のつまずきを挙げます。
内装工事の全部が対象になるわけではない
改装費のうち対象になるのは、建物附属設備に当たる部分だけです。
空調、換気、給排水、電気設備といった部分は建物附属設備として整理できます。一方で床や壁の造作、什器の造り付けなどは建物本体や別の資産に区分されます。
見積が一式でまとまっていると判定できません。工事業者に内訳を分けてもらう必要があります。
開店準備中は事業供用と認められない
設備を据え付けても、実際に営業を始めるまでは事業供用に当たりません。
新規出店の場合、決算日までに開店していなければ当期の適用は受けられません。内覧会や試運転だけでは足りないと判断される可能性があります。
既存店の入れ替えなら、稼働を始めた日が明確なので判断しやすくなります。
繁忙期を避けると期末に寄りやすい
工事を閑散期に寄せると、決算日の直前に集中して遅延リスクが上がります。
飲食店は繁忙期に工事を入れづらく、結果として1〜2月や梅雨時期に固まりがちです。3月決算なら期末と重なります。
工期が延びれば事業供用が翌期にずれます。余裕を持った日程を業者と共有しておいてください。
改装工事は「建物附属設備」「建物」「器具備品」に内訳を分けた見積をもらってください。一式表記のままでは、どこまでが対象か判定できません。
逆算スケジュール|決算日から並べ直す

工事を伴うぶん、製造業より余裕を見ておく必要があります。
6か月前|設備の選定と内訳の確認
この時期に見積の内訳を分けてもらい、証明書の可否を確認します。
どの部分が建物附属設備で、どれが器具備品かをここで固めます。金額基準を満たすかも同時に判定します。
証明書が取れない設備が混じる場合は、投資計画で経済産業局の確認を受けるルートを検討し始めます。
4か月前|経営力向上計画の申請
設備の内訳が固まったら、計画を作成して申請します。
認定までの期間は申請先や時期によって変わります。工事の発注はこの認定の見込みが立ってからにすると安全です。
認定前に発注しても構いませんが、認定が下りなければ制度は使えません。その場合の資金計画も持っておいてください。
1か月前|工事完了と営業再開
遅くともこの時期には、工事を終えて営業を再開している状態を目指します。
事業供用の事実は、営業再開の記録や売上データで説明できるようにしておきます。写真や工事完了報告書も残します。
決算日ぎりぎりの完了は避けてください。工期が数日延びるだけで翌期扱いになります。
飲食店の経営強化税制に関するよくある質問

実務へ落とし込むときに、相談として多く寄せられる論点をまとめます。
飲食店でも経営強化税制は使えますか?
飲食店業は指定事業に含まれます。
使えます。料理店業その他の飲食店業は指定事業に含まれます。ただし料亭やバーなど一部の業態は同業者団体の組合員である場合に限られる扱いがあり、実態が娯楽業や性風俗関連特殊営業に当たる場合は対象外です。
厨房機器はいくらから対象ですか?
厨房機器は1台30万円以上が基準です。
工具・器具・備品として1台30万円以上が基準です。業務用冷蔵庫やオーブン、食洗機などが該当します。1台または1基あたりで判定するため、複数台を合算して30万円を超えても対象にはなりません。
リースで入れた設備でも即時償却できますか?
リースでは即時償却は使えません。
できません。所有権移転外リース取引で取得した設備は特別償却の規定が適用できず、税額控除だけが使えます。今期の納税を大きく抑えたいなら購入で導入する必要があります。
中古の厨房機器でも対象になりますか?
中古は対象外です。
なりません。対象はその製作の後事業の用に供されたことのない新品の設備に限られます。金額基準を満たしていても、中古であればこの制度は使えません。
店舗の改装費は全部対象になりますか?
対象は建物附属設備に当たる部分だけです。
なりません。改装費のうち建物附属設備に当たる部分だけが対象です。空調や換気、給排水、電気設備などが該当し、床や壁の造作は建物本体として区分されます。見積を一式でもらうと判定できないため、内訳を分けてもらってください。
新規出店で開店が決算後になったらどうなりますか?
開店前は事業供用に当たりません。
当期の適用は受けられません。設備を据え付けても、実際に営業を始めるまでは事業供用に当たらないためです。開店日が決算日を越える見込みなら、翌期での適用を前提に計画を組み直すことになります。





