会計事務所の節税商品の扱い方|紹介・情報提供・販売の違い

顧問料の値上げが難しい一方で、顧問先からは節税の相談が増えている。節税商品の紹介で収益を作れるという話は聞くものの、税理士法や保険業法との関係が整理できず、そもそもどの形で関わるべきかも決められない。声をかけてくる提携先の説明も、都合のよい部分しか触れていない。
扱い方は情報提供・紹介・販売の3つに分かれます。必要な登録や届出、受け取れる報酬の性質、負う責任がそれぞれ違うため、先にどの形で関わるかを決めることが出発点です。顧問先との利益相反をどう避けるかも、始める前に文書にしておく必要があります。
この記事でわかること
- 情報提供・紹介・販売の3形態と、それぞれで変わるもの
- 税理士法が制限している範囲と、職員の関与の線引き
- 保険業法の募集規制に触れる場面
- 顧問先に出すときの順序と、利益相反の避け方
- 提携先を選ぶときに必ず確認する項目
- 始める前に事務所内で決めておくルール
扱い方は3つに分かれる|情報提供・紹介・販売

「節税商品を扱う」という言葉は、実際には性質の違う3つを指しています。どれを選ぶかで必要な手続きも責任も変わります。
情報提供は制度や商品の一般的な説明にとどめる
この形は、特定の契約を勧めず、選択肢として情報を渡すものです。
制度の仕組み、対象になる要件、想定される効果とリスクを一般論として伝えます。顧問先が自分で判断して外部と契約する形です。
報酬は発生しないか、顧問料の範囲内に含まれます。収益源としては弱い一方で、必要な手続きは最も少なくなります。
紹介は見込み客を提携先につなぐ
この形は、契約手続きには関与せず、提携先を引き合わせるものです。
紹介料を受け取る形が一般的です。その内容が商品によっては募集行為や仲介に当たらないか、個別に確認する必要があります。
紹介した後に顧問先と提携先の間でトラブルが起きたとき、事務所がどこまで責任を負うのかを契約書で明確にしておかないと、後から揉めます。
販売は自ら契約手続きに関与する
この形は、商品の説明から申込みまで事務所が担うものです。
受け取れる報酬は大きくなりますが、必要な登録や届出、そして負う責任も大きくなります。保険であれば募集人としての登録が必要です。
説明義務や適合性の判断が事務所側に生じます。人員と教育の体制がないまま始めると、事故につながります。
| 形態 | 契約への関与 | 報酬 | 手続きの重さ |
|---|---|---|---|
| 情報提供 | しない | 原則なし/顧問料の範囲 | 軽い |
| 紹介 | しない(引き合わせのみ) | 紹介料 | 中 |
| 販売 | する | 販売手数料 | 重い |
法令の適用は個別の事情によって変わります。実際に取り扱いを始める前に、所属税理士会、監督官庁、弁護士に確認してください。この記事は一般的な整理であり、個別の可否を判断するものではありません。
税理士法の線引き|誰が税務判断を伝えるか

商品の説明と税務判断は別物です。ここが混ざると問題になります。
税理士業務は税理士でなければ行えない
税理士法は、税理士でない者が税理士業務を行うことを制限しています。
税務代理、税務書類の作成、税務相談が税理士業務です。個別具体的な税務判断を伝える行為は、この範囲に入ります。
提携先の営業担当者が「御社なら全額損金にできます」と言えば、それは個別の税務相談に踏み込んでいる可能性があります。誰が何を話すかを事前に切り分けてください。
職員が同席するときの役割を決めておく
事務所の職員が商談に同席する場合、税務判断は税理士が行うという線を保つ必要があります。
職員が単独で個別の税務効果を説明する形は避けます。同席して事実関係を整理し、判断は税理士が示すという役割分担にしておくと安全です。
議事録や面談記録に、誰が何を説明したかを残しておくと後から確認できます。
無償でも税務相談に当たり得る
報酬の有無にかかわらず、個別具体的な税務相談は税理士業務に含まれます。
「サービスで教えただけ」という整理は通用しません。無償の助言でも、内容が個別の税務判断であれば同じです。
提携先との契約書に、税務判断は税理士が行う旨を明記しておくと、役割の混同を防げます。
提携先との契約書に、税務判断は税理士が行う旨を明記しておくと、役割の混同を防げます。
出典: e-Gov法令検索「税理士法」
提携先の資料に「税務上は全額損金」と断定的な記載がある場合、そのまま顧問先に渡さないでください。個別の判断は事務所が改めて示す形にします。
保険業法の線引き|募集に当たるかどうか

節税商品には保険を組み込んだものが多くあります。ここは登録の有無が分かれ目です。
保険募集には登録が必要
保険業法は、登録を受けた募集人等でなければ保険募集を行えないと定めています。
契約の勧誘、契約内容の説明、申込書の記入補助などは募集行為に当たり得ます。登録なしにこれらを行うと問題になります。
保険を含む提案をするなら、募集人として登録するのか、募集に当たらない範囲にとどめるのかを先に決めてください。
紹介にとどめる場合も内容を確認する
見込み客をつなぐだけでも、その内容によっては募集に当たると評価されることがあります。
商品の内容に踏み込んで説明したり、加入を勧めたりすれば、実質的に募集をしていると見られる可能性があります。
紹介の範囲を「保険会社や代理店を引き合わせるところまで」と明確にし、商品説明は提携先が行う形にしておくのが無難です。
報酬の性質も確認する
受け取る対価が、紹介料なのか募集手数料なのかで扱いが変わります。
募集手数料に当たるものを登録なしに受け取ることはできません。提携先が提示する報酬体系が、どの性質のものかを契約前に確認してください。
曖昧なまま始めると、後から遡って問題になります。書面で確認することが大切です。
曖昧なまま始めると、後から遡って問題になります。書面で確認することが大切です。
出典: e-Gov法令検索「保険業法」
法令の適用は個別の事情によって変わります。実際に取り扱いを始める前に、所属税理士会、監督官庁、弁護士に確認してください。この記事は一般的な整理であり、個別の可否を判断するものではありません。
扱う商品の性質を見分ける

商品を扱う前に、その商品が本当に税負担を減らすのか、時期を移すだけなのかを見分けておく必要があります。
多くの商品は繰り延べにすぎない
設備の即時償却も共済の掛金も、翌期以降の損金や出口の益金として戻ってきます。
通算の税額はほぼ変わりません。効果は資金繰りの前倒しです。ここを説明せずに「節税になります」とだけ伝えると、後で信頼を失います。
経営セーフティ共済は令和6年10月1日以降、解約して再加入した場合に解約日から2年を経過する日までの掛金が損金にならない扱いになりました。繰り返し使う前提の提案は成り立ちません。
通算でも減るものは限られる
退職所得控除のように課税方法そのものが変わるものが例外です。
役員退職金は会社で損金になり、受け取る側も退職所得として軽く課税されます。税額控除も税額そのものを減らす取り切りです。
この区別を資料に明記しておくと、提案の質が上がります。顧問先も判断しやすくなります。
出口の年を必ず記録に残す
繰り延べ型の商品は、解約や取り崩しの年を決めてから入るものです。
共済の解約手当金は受け取った期の益金です。役員退職金の支給年など、大きな損金が立つ年に重ねる設計にします。
顧問先ごとに出口の年を一覧で管理しておくと、担当者が代わっても引き継げます。
| 商品・打ち手 | 性質 | 出口 |
|---|---|---|
| 役員退職金 | 通算でも減る | 受け取る側は退職所得 |
| 税額控除 | 通算でも減る | ― |
| 設備の即時償却 | 繰り延べ | 翌期以降の償却費が減る |
| 経営セーフティ共済 | 繰り延べ | 解約手当金が益金 |
| オペレーティングリース | 繰り延べ | 売却益が益金 |
顧問先ごとに出口の年を一覧で管理しておくと、担当者が代わっても引き継げます。
顧問先への出し方|順序と利益相反

商品ありきで話を始めると、関係が壊れます。順序を守ることが最大の防御になります。
現金が出ない打ち手を先に潰す
商品の話に入る前に、計上漏れの拾い出しと除却を終わらせておくことです。
未払費用の計上、不要資産の除却、40万円未満の資産整理などで足りるなら、そこで止めます。現金を出さずに済むならそのほうがよい提案です。
この順序を先に示しておくと、商品の提案が唐突に見えません。「やるべきことをやったうえで、それでも余力があるなら」という文脈が作れます。
報酬を受け取ることを開示する
紹介料や手数料を受け取る場合、その事実を顧問先に伝えておくべきです。
後から知られたときの信頼の毀損は、受け取る報酬より大きくなります。先に開示しておけば、顧問先も納得したうえで判断できます。
開示の方法を事務所のルールとして決めておくと、担当者による差が出ません。
断られる前提で複数出す
1つの商品だけを持っていくと、勧誘されていると受け取られます。
複数の選択肢と、それぞれのデメリットを並べる形にします。何も選ばないという選択肢も残してください。
「今年は見送りましょう」と言える関係のほうが、長期では収益になります。
提携先を選ぶときに確認する項目

声をかけてくる提携先は、都合のよい部分しか説明しません。こちらから確認する項目を持っておく必要があります。
税務上の根拠を条文レベルで示せるか
「全額損金」という説明の裏に、どの条文や通達があるのかを聞くことです。
根拠を示せない提携先は避けてください。過去に否認された類似スキームがないかも確認します。
国税庁の質疑応答事例や、過去の裁決・判例に触れているかどうかで、提携先の理解度が分かります。
出口の設計まで説明できるか
入口の損金だけでなく、解約や売却の年にどうなるかを説明できるかを見ます。
出口を聞いて言葉に詰まる提携先は、商品を売ることしか考えていません。顧問先が数年後に困ります。
解約返戻率の推移や、益金になるタイミングの資料を出せるかどうかが判断材料になります。
契約書で責任分担を明確にする
トラブルが起きたときに、誰がどこまで責任を負うのかを書面にすることです。
説明義務の所在、税務判断の担当、顧問先からのクレーム対応の窓口を明記します。口頭の合意では守られません。
報酬の性質(紹介料か手数料か)と支払条件も、同じ書面で確認してください。
| 確認項目 | 見るポイント |
|---|---|
| 税務上の根拠 | 条文・通達・質疑応答事例を示せるか |
| 否認リスク | 類似スキームの否認事例を把握しているか |
| 出口の設計 | 解約・売却時の課税を説明できるか |
| 責任分担 | 契約書に説明義務と窓口が書かれているか |
| 報酬の性質 | 紹介料か手数料かが明確か |
始める前に事務所内で決めること

担当者ごとに対応が違う状態で始めると、いずれ事故が起きます。
誰が説明し、誰が判断するかを固める
商品の説明と税務判断を、役割として分けて文書にすることです。
職員がどこまで話してよいか、税理士がどの段階で入るかを決めます。判断に迷ったら止める、というルールも入れておきます。
新しく入った職員にも同じ資料で説明できる形にしておくと、属人化を防げます。
提案してよい顧問先の条件を決める
すべての顧問先に同じ提案をせず、利益規模と資金状況で線を引くことです。
納税資金に余裕がない顧問先に現金が出る商品を提案しない、といった基準を先に作ります。手元現金が月商3か月分を下回る場合は見送る、といった形です。
基準があれば、担当者が営業目標に引きずられて無理な提案をすることを防げます。
記録の残し方を統一する
提案の内容と、顧問先がどう判断したかを記録に残す運用にします。
提案書、面談記録、報酬開示の事実、顧問先の意思決定。この4点が揃っていれば、後から経緯を説明できます。
実行した商品については、出口の年を管理表に入れておきます。数年後の担当者が困りません。
1枚の運用ルールで足ります。誰が説明し、誰が判断し、どの顧問先には出さないか。この3つが書いてあれば動き出せます。
収益を目的にすると起きること

収益源としての魅力は確かにあります。ただし目的が入れ替わると、失うものが大きくなります。
顧問先の利益と事務所の収益がぶつかる
手数料の大きい商品ほど、顧問先にとって最適とは限りません。
報酬の大小で提案が変わる状態は、いずれ顧問先に伝わります。信頼を失えば顧問契約そのものが揺らぎます。
報酬を開示する運用にしておくと、この葛藤が起きにくくなります。開示できない提案はしない、という基準にもなります。
否認されたときに責任を問われる
提案した商品が否認された場合、顧問先は事務所に説明を求めます。
提携先が作った資料をそのまま渡していた場合、事務所として独自に検証したかどうかが問われます。
根拠を自分で確認し、その記録を残しておくことが実務上の防御になります。
本業の質が落ちる
商品の提案に時間を取られ、本来の税務と決算の精度が下がることがあります。
リソースが有限である以上、どこかにしわ寄せが来ます。取り扱う商品を絞る判断も必要です。
収益の柱を増やすこと自体は健全ですが、本業の品質を下げてまで追うものではありません。
手数料の大きさで提案順位が決まる状態、提携先の資料を検証せず渡す状態、報酬を開示していない状態。この3つが揃うと事故が起きます。
会計事務所の節税商品の取り扱いに関するよくある質問

実務へ落とし込むときに、相談として多く寄せられる論点をまとめます。
会計事務所が節税商品を扱うことに問題はありますか?
形態ごとに必要な手続きが変わります。
形態を守れば問題ありません。ただし情報提供・紹介・販売のどれに当たるかで必要な登録や届出が変わります。保険を含む場合は保険業法の募集規制、個別の税務判断を伴う場合は税理士法の制限を確認する必要があります。個別の可否は所属税理士会や監督官庁に確認してください。
紹介料を受け取っても大丈夫ですか?
対価の性質を契約前に確認してください。
受け取る対価が紹介料なのか募集手数料なのかで扱いが変わります。募集手数料に当たるものを登録なしに受け取ることはできません。提携先が提示する報酬体系がどの性質のものかを、契約前に書面で確認してください。
職員に商品説明をさせてもよいですか?
税務判断は税理士が行う形にします。
商品の一般的な説明と個別の税務判断は分けてください。個別具体的な税務相談は税理士業務に当たるため、税理士が担う形にします。職員が同席して事実関係を整理し、判断は税理士が示すという役割分担が実務的です。
顧問先に手数料を受け取っていることを伝えるべきですか?
報酬は先に開示するべきです。
伝えるべきです。後から知られたときの信頼の毀損は、受け取る報酬より大きくなります。先に開示しておけば顧問先も納得して判断できます。開示の方法を事務所のルールとして決めておくと、担当者による差が出ません。
どんな提携先を避けるべきですか?
避けるべきは根拠と出口を説明できない提携先です。
税務上の根拠を条文レベルで示せない提携先、出口の課税を説明できない提携先、契約書で責任分担を明確にしない提携先は避けてください。入口の損金だけを強調する説明は、数年後に顧問先が困ることになります。
収益はどのくらい見込めますか?
収益は提案の順序を守った結果として考えます。
商品と形態によって幅が大きく、一般化できません。確実に言えるのは、手数料の大きさで提案順位を決めた瞬間に顧問先の信頼を失うということです。収益は結果として付いてくるものと位置づけ、提案の順序を守ることを優先してください。




