中小企業の節税事例|所得別モデルケースで減る税額を試算

節税事例を集めた記事はいくつも読んだが、どれも「〇〇社は△△万円の節税に成功」で終わっていて、自社に当てはめると何がどれだけ変わるのか分からない。金額の根拠が書かれていないので、税理士に相談する前の判断材料にならない。そんな不満を持つ経営者は多いはずです。
節税の効き方は所得規模でまったく違います。所得800万円までは法人税15%、超える部分は23.2%なので、同じ100万円の損金でも減る税額は変わります。判断に使えるのは、前提と計算式まで示されたモデルケースだけです。共済・即時償却・役員退職金が所得規模ごとにいくら効くのかを、同じ条件で並べて比べます。
この記事でわかること
- 節税額を左右する中小法人の税率構造(15%と23.2%の境目)
- 所得800万円のモデルケースで共済がいくら効くか
- 所得3,000万円のモデルケースで即時償却がいくら効くか
- 所得5,000万円のモデルケースで役員退職金がいくら効くか
- 現金が出ない対策から先に着手すべき理由
- 事例をそのまま真似すると失敗するパターン
事例を読むときの前提|税率の境目を先に押さえる

同じ金額を損金にしても、所得の水準によって減る税額は変わります。事例の金額だけを見ても自社に当てはまらないのはこのためです。
年800万円が最初の境目になる
中小法人の法人税率は年800万円以下の部分が15%、超える部分が23.2%です。
資本金1億円以下の法人などが対象で、適用除外事業者(前3年の所得の年平均額が15億円を超える法人など)は19%になります。所得が年10億円を超える事業年度は15%の部分が17%になります。
つまり所得800万円の会社と5,000万円の会社では、同じ100万円の損金でも減る法人税が15万円と23.2万円で1.5倍以上違います。
地方法人税は法人税額の10.3%
法人税額が決まると、その10.3%が地方法人税として上乗せされます。
法人税が減れば地方法人税も連動して減ります。この記事の試算では、法人税と地方法人税を合わせた国税ベースで比較しています。
法人住民税と事業税は自治体や規模で異なるため含めていません。実際の効果は試算より大きくなると考えてください。
減らす対象は税額ではなく所得
多くの節税策は税額控除ではなく損金を増やして所得を下げる仕組みです。
損金が100万円増えると、その100万円に対応する税額が減ります。800万円超の帯なら国税ベースで約25.6%、つまり約25.6万円です。
逆に言えば、100万円使って25.6万円しか戻りません。手元の現金は74.4万円減ります。この当たり前の算数を飛ばして事例を読むと判断を誤ります。
| 所得の帯 | 法人税率 | 地方法人税を含めた実質率 |
|---|---|---|
| 年800万円以下 | 15% | 約16.5% |
| 年800万円超 | 23.2% | 約25.6% |
| 適用除外事業者 | 19% | 約21.0% |
逆に言えば、100万円使って25.6万円しか戻りません。手元の現金は74.4万円減ります。この当たり前の算数を飛ばして事例を読むと判断を誤ります。
法人税(年800万円以下15%/超える部分23.2%)と地方法人税(法人税額の10.3%)だけで計算しています。法人住民税と事業税は自治体や規模で異なるため含めていません。実際の手取り効果はこの試算より大きくなります。また資本金1億円以下で適用除外事業者に当たらない中小法人を前提にしています。
モデルケース1|所得800万円の会社が共済を使う

従業員5名、所得800万円、手元現金1,500万円という前提のモデルケースです。設備投資の予定はなく、まず現金を大きく減らさずに何ができるかを考える段階とします。
経営セーフティ共済を年240万円前納する
経営セーフティ共済の掛金は月額5,000円から20万円まで、掛金総額800万円が上限です。
月20万円を1年分前納すれば年240万円を損金にできます。40か月以上納めれば自己都合で解約しても掛金は全額戻るため、社外に積み立てながら課税を先送りする形になります。
ただし解約手当金は受け取った期の益金です。出口で利益が出る期に重ならないよう、退職金の支給時期などと合わせて設計します。
減る国税は約39.7万円
所得800万円が560万円に下がることで、法人税と地方法人税の合計は約39.7万円減ります。
対策前は法人税120万円と地方法人税12.36万円で合計132.36万円。対策後は法人税84万円と地方法人税8.65万円で合計92.65万円です。
240万円を支払って39.7万円が戻る計算なので、手元現金は約200万円減ります。この200万円は共済に積み上がっているため消えたわけではありませんが、すぐには使えません。
経営者個人の小規模企業共済も同時に検討する
会社の損金とは別に、経営者個人の所得控除になる小規模企業共済も併せて考えます。
小規模企業共済は月1,000円から7万円まで、年間最大84万円が経営者本人の所得から控除されます。会社の損金にはなりません。
会社と個人で効く場所が違うため、両方を並べて資金繰りに無理のない金額を決めるのが実務的です。
| 項目 | 対策前 | 対策後(共済240万円) |
|---|---|---|
| 所得金額 | 800万円 | 560万円 |
| 法人税 | 120.0万円 | 84.0万円 |
| 地方法人税 | 12.4万円 | 8.7万円 |
| 国税合計 | 132.4万円 | 92.7万円 |
| 差額 | ― | 約39.7万円の減少 |
会社と個人で効く場所が違うため、両方を並べて資金繰りに無理のない金額を決めるのが実務的です。
モデルケース2|所得3,000万円の会社が設備を入れる

従業員25名、所得3,000万円、老朽化した生産設備の更新を1〜2年内に予定している製造業という前提です。もともと必要な投資があるケースを想定します。
2,000万円の設備を即時償却する
中小企業経営強化税制などの要件を満たせば、取得価額の全額をその事業年度の損金にできます。
通常なら耐用年数にわたって少しずつ償却する金額を、初年度に一括で落とす仕組みです。要件確認と認定申請が必要なので、決算間際に思いつきで動ける制度ではありません。
ここでは要件を満たし、期末までに取得と事業供用を終えたという前提で試算します。
減る国税は約511.8万円
所得3,000万円が1,000万円に下がることで、国税ベースで約511.8万円減ります。
対策前は法人税630.4万円と地方法人税64.9万円で合計695.3万円。対策後は法人税166.4万円と地方法人税17.1万円で合計183.5万円です。
800万円超の帯が大きく削られるため、率で見ても効きが強くなります。所得800万円の会社が同じ2,000万円を使っても、ここまでの差にはなりません。
これは減税ではなく繰り延べ
翌年以降はその設備の減価償却費が計上できなくなります。
初年度に全部落とした分、2年目以降の損金は減ります。数年で均せば税額の合計は大きく変わりません。効果は資金繰りの前倒しです。
使う予定のなかった設備を節税のためだけに買えば、2,000万円払って511.8万円戻るだけの取引になります。もともと必要な投資かどうかが判断の起点です。
| 項目 | 対策前 | 対策後(即時償却2,000万円) |
|---|---|---|
| 所得金額 | 3,000万円 | 1,000万円 |
| 法人税 | 630.4万円 | 166.4万円 |
| 地方法人税 | 64.9万円 | 17.1万円 |
| 国税合計 | 695.3万円 | 183.5万円 |
| 差額 | ― | 約511.8万円の減少 |
即時償却は税金がなくなる制度ではありません。翌期以降の償却費を先に使っているだけで、通算の税額はほぼ変わりません。
モデルケース3|所得5,000万円の会社が退職金を出す

従業員40名、所得5,000万円、創業社長が代表を退いて会長になる年という前提です。事業承継のタイミングと重なるケースを想定します。
役員退職金3,000万円を支給する
適正額の範囲であれば、支給した事業年度の損金になります。
金額の妥当性は功績倍率法などで説明できる水準に収める必要があります。過大とされた部分は損金になりません。株主総会の決議と支給時期の記録も欠かせません。
ここでは最終報酬月額・在任年数・功績倍率から3,000万円が妥当と説明できる前提で試算します。
減る国税は約767.7万円
所得5,000万円が2,000万円に下がることで、国税ベースで約767.7万円減ります。
対策前は法人税1,094.4万円と地方法人税112.7万円で合計1,207.1万円。対策後は法人税398.4万円と地方法人税41.0万円で合計439.4万円です。
削られる3,000万円がすべて23.2%の帯にあるため、国税ベースで約25.6%がそのまま効く形になります。
受け取る側は退職所得で軽くなる
受け取った本人にとっても、退職所得控除と2分の1課税が使えます。
同じ金額を役員報酬として払えば給与所得として毎年課税されますが、退職金なら控除後の2分の1にしか課税されません。会社と個人の両方で効く数少ない打ち手です。
同じ年に株価が下がるため、自社株の贈与や事業承継税制の検討と組み合わせやすいのも特徴です。
| 項目 | 対策前 | 対策後(退職金3,000万円) |
|---|---|---|
| 所得金額 | 5,000万円 | 2,000万円 |
| 法人税 | 1,094.4万円 | 398.4万円 |
| 地方法人税 | 112.7万円 | 41.0万円 |
| 国税合計 | 1,207.1万円 | 439.4万円 |
| 差額 | ― | 約767.7万円の減少 |
退職金は一度きりの打ち手です。使う年を選べるので、株価対策や承継のスケジュールと合わせて設計すると効果が二重になります。
現金が出ない対策から着手する

事例で目立つのは大きな金額の話ですが、実務では現金の出ない打ち手から順に潰すのが基本です。
すでに発生している費用の計上漏れを拾う
決算までに未払費用や未計上の経費がないかを確認することから始めます。
決算日までに債務が確定している社会保険料、未払給与、未払家賃などは、支払いが翌期でも当期の損金になります。現金は出ていきません。
使わなくなった固定資産の除却も同じです。帳簿に残っている資産を処分すれば除却損が立ちます。
40万円未満の資産は取得時に全額落とせる
中小企業者等は、40万円未満の減価償却資産を合計300万円まで即時償却できます。
従来の30万円未満から拡充されており、適用期限は令和11年3月31日までです。中小企業者は従業員400名以下が対象です。
パソコンや什器の入れ替えなど、もともと予定していた小さな投資をこの枠に収める形で整理すると無理がありません。
そのうえで現金が出る対策を検討する
共済や設備投資は、現金が出ていく順番として最後に置くべきものです。
納税額を減らすために現金を減らしては本末転倒です。納税資金を確保したうえで、余力の範囲で使うのが順序になります。
手元現金が月商の3か月分を下回るなら、現金が出る節税は見送るという線引きを先に決めておくと迷いません。
手元現金が月商の3か月分を下回るなら、現金が出る節税は見送るという線引きを先に決めておくと迷いません。
制度別の効き方を並べて比べる

同じ「節税」でも、繰り延べなのか本当に減るのか、出口で課税されるのかが違います。ここを揃えて見ると判断しやすくなります。
本当に減るものと先送りするものを分ける
税額が通算で減るのは、退職所得控除や税額控除が絡む打ち手に限られます。
役員退職金は、会社で損金になったうえに受け取る側でも退職所得として軽く課税されるため、通算でも負担が下がります。
即時償却や共済の掛金は、時期を移しているだけです。出口で益金になったり償却費が減ったりして戻ってきます。
出口で課税される時期を先に決める
共済の解約手当金は、受け取った期の益金になります。
解約する年に大きな利益が出ていれば、そこで一気に課税されます。退職金の支給年に合わせて解約するなど、出口を先に決めてから入るのが定石です。
令和6年10月1日以降に解約して再加入した場合、解約の日から2年を経過する日までに支出する掛金は損金になりません。解約と再加入を繰り返す使い方は封じられています。
資金拘束の強さで優先順位が変わる
同じ効果でも、現金が何年戻ってこないかは制度ごとに違います。
少額資産の即時償却は事業に使う資産なので拘束感がありません。共済は40か月という区切りがあります。設備投資はさらに長期です。
手元資金に余裕がないほど、拘束の弱いものから順に選ぶことになります。
| 打ち手 | 効果の性質 | 出口 | 資金拘束 |
|---|---|---|---|
| 役員退職金 | 通算でも減る | 受け取る側は退職所得 | 支給時に一度 |
| 即時償却 | 繰り延べ | 翌期以降の償却費が減る | 設備の耐用年数 |
| 経営セーフティ共済 | 繰り延べ | 解約手当金が益金 | 40か月で全額返戻 |
| 少額資産の即時償却 | 繰り延べ | 翌期以降の償却費が減る | 事業で使うため実質なし |
| 小規模企業共済 | 経営者個人で減る | 一括は退職所得 | 240か月未満は元本割れ |
手元資金に余裕がないほど、拘束の弱いものから順に選ぶことになります。
事例をそのまま真似すると起きること

他社の事例が自社で再現できるとは限りません。うまくいかない典型を挙げます。
所得の帯が違うと効果が半分以下になる
所得800万円以下の会社では、同じ損金でも効果が15%の帯にとどまります。
所得5,000万円の会社の事例で「1,000万円の対策で256万円減った」と書かれていても、所得800万円の会社が同じことをすれば減るのは165万円ほどです。
しかも所得を超える損金は当期に使いきれません。欠損金の繰越はできますが、その年の資金繰りは苦しくなります。
要件確認を飛ばして期末に動く
即時償却も経営強化税制も、認定や証明書の取得に時間がかかります。
決算1か月前に思い立っても、要件を満たす設備の選定、工業会証明書や経営力向上計画の認定、取得と事業供用まで間に合わないことがあります。
事例の裏には数か月前からの準備があります。表に出るのは結果だけなので、時間軸が見えません。
出口を決めずに入る
共済も保険も、解約する年を決めずに入ると出口で課税されます。
解約手当金が益金になる年に大きな利益が重なると、繰り延べた分が一度に戻ってきます。何のために先送りしたのか分からなくなります。
入口の損金だけを見た事例紹介はここを書きません。自社で判断するときは、必ず出口の年を先に置いてください。
納税資金を取り崩してまで行う節税は、翌期の資金繰りを傷めます。手元現金が月商3か月分を下回る状態で現金の出る対策を選ぶのは避けてください。
実行時期|決算日から逆算して並べる

同じ打ち手でも、いつ動くかで使えるかどうかが変わります。決算日を起点に並べ直します。
6か月前|設備投資と制度活用の判断
認定や証明書が要る制度は、決算の半年前には方向を決めておく必要があります。
経営力向上計画の認定には申請から一定の期間がかかります。設備の発注から納品、据付、事業供用までのリードタイムも見込みます。
この段階では利益の着地見込みが粗くても構いません。使う可能性のある制度を洗い出しておくことが目的です。
3か月前|利益の着地を固めて金額を決める
この時期に、納税額の見込みと使える資金を突き合わせます。
共済の掛金や前納の判断、退職金の支給時期、少額資産の購入計画などを具体的な金額に落とします。
納税予定額を先に確保し、残った余力で対策の金額を決める順序にすると、翌期に困りません。
1か月前|現金が出ない打ち手を拾い切る
最後の1か月は、計上漏れと除却の確認に集中する時期です。
未払費用の計上、不要資産の除却、貸倒れの検討など、現金を減らさずにできることが残っていないかを洗います。
この時期に大きな買い物を決めるのは避けてください。要件を満たさない、事業供用が間に合わないといった事故が起きやすくなります。
中小企業の節税事例に関するよくある質問

実務へ落とし込むときに、相談として多く寄せられる論点をまとめます。
節税事例の金額はそのまま自社に当てはまりますか?
所得の帯が違えば効果は変わります。
当てはまりません。中小法人の法人税率は年800万円以下が15%、超える部分が23.2%なので、同じ損金でも所得の帯によって減る税額が変わります。事例を読むときは、その会社の所得規模を必ず確認してください。
いちばん効果の大きい節税策は何ですか?
通算でも減るのは役員退職金です。
金額だけで見れば役員退職金です。会社で損金になり、受け取る側も退職所得控除と2分の1課税で軽くなるため、通算でも負担が下がります。ただし一度きりの打ち手で、適正額の説明も必要です。
即時償却は本当に得ですか?
即時償却は繰り延べです。
もともと必要な設備投資であれば、資金繰りを前倒しできる分だけ有利です。ただし翌期以降の償却費が減るため、数年で均せば税額の合計はほぼ変わりません。節税のためだけに買うと、支出だけが残ります。
経営セーフティ共済はいつ解約すればよいですか?
解約は大きな損金が立つ年に合わせます。
解約手当金は受け取った期の益金になるため、退職金の支給など大きな損金が立つ年に合わせるのが基本です。40か月以上納めていれば自己都合の解約でも掛金は全額戻ります。出口を決めてから入ってください。
赤字の会社でも節税策は必要ですか?
赤字なら減る税額はありません。
所得がなければ損金を増やしても減る税額はありません。まず欠損金の繰越控除や繰戻し還付が使えるかを確認するほうが実益があります。現金が出る対策は黒字化してからで十分です。
決算1か月前からできることはありますか?
1か月前なら現金が出ない打ち手に絞ります。
現金が出ない打ち手なら残っています。未払費用の計上、不要資産の除却、貸倒れの検討などです。一方で経営強化税制のような認定が要る制度は間に合わないことが多いため、半年前から準備しておく必要があります。




