黒字決算が見えてくると、多くの中小企業の経営者が一度はこう考えます。
「節税のことは、税理士に任せておけば大丈夫だろう」と。
もちろん専門家に任せる判断自体は合理的です。問題は、“何を任せるか”を整理しないまま丸投げになってしまうこと。黒字の年ほど忙しく、決算直前に慌てて「とりあえず何かやりたい」と動くと、選択肢を取りこぼしたり、逆にムダな支出で資金を減らしたりしがちです。
本記事では、グレーな節税手法や手順書レベルのHowToではなく、黒字決算の中小企業が「最低限これだけは確認しておくべき」節税の“論点”を整理します。
※具体的な適用可否・金額・経理処理は会社の状況で変わるため、最終判断は税理士等の専門家に確認してください。
【結論ボックス:黒字決算の中小企業が決算前にやるべきこと】
黒字が見えてから慌てるほど、選択肢は減ります。まずはこの3つだけでOKです。
(「黒字 税金 決算」「決算 黒字 税金 対策」で検索しても難しく感じるなら、この記事は“税理士と意味のある相談ができる状態”にするための整理メモだと思ってください。)
【黒字決算だと税金が増える理由】
黒字が見えてくると、「税金って結局いくら増えるの?」「何を基準に考えればいい?」とモヤっとしがちです。
このパートでは、まず“なぜ黒字だと税金が増えるのか”を、経営者が押さえておくべき前提から整理します。ポイントは、税金の全体像と、もう一つの落とし穴である利益=現金ではないという考え方です。
このH2内で知りたいところへ
・中小企業に課される主な税金の種類
・利益と税額の関係(利益=現金ではない理由)
中小企業に課される主な税金の種類
まず押さえたいのは、「黒字=税金が増える」はほぼ事実だという点です。利益(課税所得)が出れば、基本的に納税が発生します。
さらに、中小企業の実務では「法人税だけ見ればOK」になりません。国に納める税金だけでなく、都道府県・市区町村に納める地方税も絡みます。業種や規模、取引状況によっては消費税も影響します。
この“税金の全体像”を把握していないと、決算直前に「思ったより税金が重い」「資金が足りないかも」となりやすいです。
利益と税額の関係(利益=現金ではない理由)
次に重要なのが「利益=現金ではない」問題です。利益(会計上の黒字)は、売上と費用の差で計算されます。一方で、会社が実際に使えるのは現金・預金です。この2つは一致しないのが普通で、ズレが生まれます。
たとえば、売上は計上されているのに入金はまだ先で売掛金が増えている。あるいは在庫が積み上がって現金がモノに変わっている。借入返済や投資で現金が先に出ていく。こうした状態でも帳簿上は黒字になります。
だから「黒字なのにお金がない」はおかしくありません(むしろ、黒字でも資金が薄い会社は珍しくありません)。
節税を考える前に、まず「納税を払ったあとに現金が残るか」を確認する。これが黒字決算の出発点です。
【黒字の中小企業が取り組むべき節税の方向性】
経費・投資で課税所得を減らす
ここで言う「経費・投資で課税所得を減らす」とは、税務上認められる範囲で費用(損金)を適正に計上し、課税所得を圧縮することです。
ポイントは“節税のために無理な支出を作る”ことではありません。もともと必要な支出を取りこぼさず、区分とタイミングを整えることです。
黒字の年ほど、計上漏れや未払の抜けが出やすく、結果として課税所得が余計に大きくなっているケースがあります。まずは「正しく戻す」だけで、ムダな出費なしで税負担が適正化されることがあります。
制度活用で合法的に節税する
「制度活用」とは、国が用意している仕組み(共済や特例など)を使って、合法的に税負担を調整することです。
ただし、制度は入口(加入・拠出)だけで判断すると失敗しやすい領域です。出口(解約・受取・再加入・運用)まで含めた設計が必要で、ここは税理士とセットで固めるのが安全です。
支出タイミングを調整する
「支出タイミングの調整」とは、同じ支出でも今期に実行・計上するか、来期に回すかで税負担とキャッシュの出方が変わるため、決算前後の行動を整理して整えることです。
決算直前に慌てるほど選択肢が減るのは、期限や要件がある論点が混ざるからです。今期に間に合うものと、来期でもよいものを切り分けるだけでも、判断ミスが減ります。
【今期まだ間に合う即効性のある節税策】
倒産防止共済(経営セーフティ共済)
倒産防止共済(経営セーフティ共済)とは、取引先の倒産などに備えるための共済制度です。節税の文脈で語られるのは、掛金が一定条件で損金(法人)/必要経費(個人)になり得るため、当期の課税所得に影響しやすいからです。
ただし重要なのは入口よりも出口(解約・再加入・受取)まで含めた設計です。特に制度改正により「解約→すぐ再加入でまた落とす」設計は前提にしない方が安全です。共済を使うなら、「今期いくら税金が減るか」より先に、税理士と出口を含む設計を整理するのが鉄則です。
小規模企業共済
小規模企業共済とは、経営者や役員などが将来の退職・廃業に備えて積み立てる制度です。ここで押さえるべきポイントは、会社の損金(法人の経費)ではなく、支払った本人の所得控除として扱われる点です。
「会社の黒字対策」と「経営者個人の控除」を混同すると相談がズレるので、法人側の黒字・納税見通しと、個人側の控除効果・資金拘束まで含めて整理するのが安全です。
決算賞与の活用
決算賞与とは、期末(決算時期)に合わせて支給する賞与のことです。設計と運用によって当期の費用(損金)として扱える場合があるため、決算前の論点として挙がります。
ただし、節税になるかどうかの前に確認すべきは「納税後も現金が残るか」と「社内で説明できる基準があるか」です。資金繰りを無視して賞与を出すと本末転倒になり、基準が曖昧だと運用面で揉めやすくなります。
また、当期損金にするには一定の要件を満たす必要があります。代表例として、期末までに支給額を通知していること、期末の翌日から1か月以内に実際に支給していること、当期の経理処理として損金経理(未払計上等)していること、などが論点になります。細部は会社の実態や運用で変わるため、必ず税理士に確認してください。
消耗品・固定資産購入のタイミング調整
ここでの論点は「買うこと」そのものではなく、購入したものが会計・税務上でどう扱われ、当期の利益にどう反映されるかです。消耗品として当期費用になりやすいものもあれば、固定資産として資産計上し、減価償却で数年に分けて費用化されるものもあります。
だからこそ決算前の判断は「節税のための衝動買い」にならないよう注意が必要です。来期以降に必要な投資を前倒しする合理性があるか、区分(消耗品か資産か)を説明できるか、制度要件に当てはまるか。これを納税後キャッシュの見通しとセットで判断するのが安全です。
なお「30万円未満で年300万円まで」などの特例を使う場合は、制度要件や手続(明細書添付等)も含めて確認が必要です。
未払計上・経費漏れチェックリスト
これは“新しい節税策”というより、決算前にやるべき基礎作業です。本来当期に計上できる費用を取りこぼさず反映するだけで、余計な支出を増やさずに課税所得が適正化されることがあります。
確認の中心は、毎月のサブスク、外注費、広告費、旅費交通費、研修費、備品などの計上漏れと、請求未着でも当期に発生している費用(未払費用)の抜けです。在庫がある業種では、実態と会計処理が一致しているか(滞留在庫、処分予定、評価の考え方)も合わせて整理すると、税理士との会話が早くなります。
また、在庫の評価損は「何でも落とせる」ものではなく、客観的な事情が必要になる考え方が示されています。実態と証憑の整合まで含めて確認するのが安全です。
【中長期で効果がある節税策】
役員報酬設計(社宅・旅費規程含む)
役員報酬設計とは、役員給与の決め方や支給方法、周辺制度(社宅・旅費規程など)をルールに沿って整えることです。即効性よりも、毎年の意思決定がラクになり、税負担とキャッシュの出方が安定しやすいのがメリットです。
役員報酬は年度途中で自由に動かせないルールが絡むため、決算直前に小手先で触るより、来期の設計として税理士と一緒に整える方が事故が減ります。社宅や旅費規程も、実態と規程がズレると否認リスクが上がるため、運用まで含めて形にするのがポイントです。
減価償却・固定資産分類の最適化
減価償却とは、固定資産の購入費用を一度に費用化せず、耐用年数に応じて複数年に分けて費用化する考え方です。固定資産分類の最適化は、その資産を税務上どの区分・耐用年数で扱うかを整理し、毎期の処理を安定させることです。
ここが整うと、利益のブレが減り、決算前に「今年はどうする?」が起きにくくなります。修繕費との切り分けや、資産計上の基準が曖昧なままだと、税務リスクと作業コストが積み上がるため、早い段階でルール化しておく価値があります。
福利厚生制度の活用
福利厚生制度の活用とは、従業員のための制度(健康・研修・食事など)を会社の仕組みとして整え、採用・定着と経費の適正化を同時に進める考え方です。節税目的だけで見ると薄く感じるかもしれませんが、制度として回り始めると毎年の判断がラクになります。
注意点は「特定の人だけが得する」形になっていないか、実態と制度設計が一致しているかです。ここも税理士に、運用前提でチェックしてもらうのが安全です。
オペレーティングリース・法人保険(注意点含む)
オペレーティングリースとは、設備などを借りて使う形の取引で、契約条件によって費用の出方や会計処理が変わるものです。法人保険も同様に、保障や資金準備として使うものですが、商品や設計次第で会計・税務・キャッシュが大きく変わります。
この領域での失敗は、「節税になるらしい」という入口だけで判断して、出口(解約・満期・支払)で資金拘束や損益のブレに悩むパターンです。商品ありきではなく、目的(保障・資金準備・採用等)とキャッシュの許容度、銀行評価まで含めて全体最適で検討するのが前提になります。
【節税の落とし穴と注意点】
脱税・租税回避との違い
脱税は、事実がないのにあるように見せたり、実態の薄い処理で税金を免れようとする行為に近づきます。租税回避は形式が整っているように見えても、実質が不自然と判断されやすい領域で、グレーな設計に寄せるほどリスクが増えます。
この記事で扱うのは、裏技ではなく「決算前に最低限押さえる論点」です。迷う場合は、実態・証憑・説明可能性の3点で判断し、税理士に確認するのが安全です。
節税しすぎで資金繰りが悪化するケース
節税は税金を減らす手段ですが、現金を増やす魔法ではありません。むしろ支出を増やすタイプの対策は、納税後の現金が薄い会社ほど危険です。
黒字なのに資金繰りが苦しい会社で「節税のために買う・払う」をやると、納税と支出が重なって詰みやすくなります。対策を検討するときは、必ず「納税後に現金が残るか」を先に確認し、その範囲で判断する。ここを外すと、節税が原因で資金繰りが崩れることがあります。
銀行評価に影響する行動
利益を落としすぎると、銀行評価や資金調達に影響することがあります。もちろん「黒字=絶対に高評価」でも「節税=必ず悪影響」でもありませんが、融資や投資の予定がある会社は、税金だけでなく資金調達の観点も含めて最適化した方が安全です。
決算前に「今年どれくらい利益を残すのがよいか」を税理士と相談できる状態を作っておくと、来期の動きも取りやすくなります。
【黒字企業向け節税ロードマップ(まとめ)】
今すぐ取り組むこと
まずは、経費漏れ・未払・在庫の棚卸しで取りこぼしを回収し、納税を含めたキャッシュ見通しを作ります。ここが整うだけで、「黒字 赤字 どこを見る」と迷ったときも、見るべきポイント(利益と現金のズレ)がブレにくくなります。
次に、今期中に判断が必要な論点(共済、決算賞与、購入タイミング、特例の可否)を洗い出し、「税理士に確認すべき質問」に落とし込みます。
決算後に検討すること
決算が終わったら、今年の結果を踏まえて「来期はどう設計するか」に移ります。役員報酬や規程整備、資産分類の基準、福利厚生の運用など、来期の意思決定をラクにする土台は、決算後に整える方が進めやすいことが多いです。
来期以降の計画的節税
節税は単発のテクニックではなく、計画として回すほどストレスが減ります。毎年の“決算前の焦り”をなくすには、月次で利益とキャッシュのズレを把握し、投資・採用・資金調達とセットで税負担を設計することが最終的にいちばん効きます。
なお「赤字決算を黒字にする方法」「中小企業 赤字 からくり」「3期連続赤字 どうなる」などは別テーマとして重要ですが、黒字の年にやるべきことは「まず現金が残る設計に整える」ことです。
【まずは専門家に相談を】
ここまで整理できたら、次は専門家に相談して「自社の場合にどうなるか」を確定させる段階です。節税は会社の状況で適用可否や最適解が変わるため、結論は税理士確認が前提になります。
相談の質を上げるコツは、数字と論点を持ち込むことです。今期の黒字見込み、納税後キャッシュ見通し、今期中に検討したい論点(共済、決算賞与、購入タイミング、特例の可否)、そして投資や融資の予定。この4点が揃っていれば、税理士との会話は一気に前に進みます。

