適格合併で繰越欠損金は引き継げる?5年要件と共同事業要件

合併が税務上の適格合併に該当しても、被合併法人の繰越欠損金を無条件で全額引き継げるわけではありません。合併事業年度開始日の5年前の日以後に特定資本関係が生じた場合は、支配関係の継続期間やみなし共同事業要件を満たすかを判定します。
内国法人同士の適格合併における被合併法人の欠損金引継ぎと、合併法人自身の欠損金制限を扱います。制度の適用は取引条件で変わるため、契約前と申告前に税理士等へ確認してください。
- 合併当事者の資本関係とその継続期間
- 両社の年度別欠損金と別表七
- 事業・規模・従業員・経営参画の比較
- 引継ぎ可・制限ありの税効果試算
適格合併と欠損金引継ぎは別のチェックを通す

資産負債を簿価で引き継げることと、欠損金を利用できることは同義ではありません。
まず合併対価、支配関係、事業継続等から適格性を判定する
完全支配、支配関係、共同事業のどの類型で適格合併とするかを決め、株式以外の対価、従業者、事業継続の要件を確認します。 合併契約に「適格」と書くだけで税務上の適格性は決まりません。
次に被合併法人の欠損金を年度別に引き継げるか判定する
合併の適格性が確定した後に、特定資本関係の期間、みなし共同事業要件、欠損金の発生年度を重ねて制限額を計算します。 「適格合併だから全額引継ぎ」とせず、欠損金の個別制限を必ず確認します。
適格合併では被合併法人の青色欠損金が原則引き継がれますが、特定資本関係の期間や共同事業性による制限があります。
適格組織再編に伴う欠損金の引継ぎ制限と特定資本関係の判定に関する取扱いが示されています。
引き継ぐ欠損金は被合併法人の申告書から復元する

財務諸表の累積損失ではなく、税務上有効な未使用額が出発点です。
対象年度の法定繰越期間分の別表七と申告状況を確認する
青色申告の承認、期限内申告、更正、繰戻し還付、過去の控除を年度別に復元し、合併直前の残高を固定します。 繰越欠損金による税効果は財務諸表の赤字額ではなく、申告書残高から計算します。
合併期日直前の最終事業年度の損益を反映する
被合併法人は合併期日の前日に事業年度が終わるため、その最終申告で発生または使用した欠損金を反映します。 合併契約日時点の見込額と、最終申告後の確定額を分け、税効果試算を差し替えます。
法定起算日から合併直前まで支配関係が継続したか判定する

合併事業年度開始日の5年前の日、被合併法人の設立日、合併法人の設立日のうち最も遅い日から、合併直前まで特定資本関係が継続したかを判定します。
株式取得、株式移転、増資による支配関係の変化を追う
50%超の支配関係がどの日に生じ、その後途切れず継続したかを、株主名簿、契約書、登記、投資台帳で確認します。 合併期日から単純に5年を逆算せず、合併法人の事業年度開始日を基準に判定します。
当事者間の支配と同一の者による支配を区分する
一方が他方を支配する関係か、親会社が双方を支配する兄弟会社関係かにより、適格要件と欠損金判定に必要な資料が変わります。 資本関係図に議決権比率だけでなく、関係の発生日と継続期間を書き込みます。
適格合併における欠損金の引継ぎは、合併の適格要件と引継ぎ制限を分けて判定します。
適格合併の資産負債の引継ぎと欠損金の引継ぎは、法人税法上それぞれの要件が定められています。
出典:e-Gov 法人税法
みなし共同事業要件は合併直前の両事業を比較する

5年の支配継続を満たさない場合でも、実態ある事業統合なら別の判定経路があります。
事業の関連性と規模の比較を定量・定性の両面で行う
商品・役務、顧客、販売経路、技術、サプライチェーンを比較し、両事業が相互に関連するかを説明します。売上、従業者数、総資産などの規模差も数値化します。 「同じ業界」という一文で共同事業性を結論せず、収益構造と事業プロセスを比べます。
従業者引継ぎと事業継続の実行計画を作る
被合併法人の主要従業者が合併後も業務を続け、主要事業が廃止されないことを、人員名簿、配置図、統合計画で確認します。 合併後すぐの退職や拠点閉鎖が予定されるなら、契約前に要件への影響を再判定します。
引継ぎ制限は被合併法人の欠損金を発生年度別に切り分ける

制限がかかる場合でも、欠損金の全てが一律に消滅するとは限りません。
特定資本関係発生前後の欠損金を区分する
支配関係が生じる前に発生した欠損金と、その後の事業活動で発生した欠損金を、各事業年度の申告書から切り分けます。 引継ぎ制限額は、合併直前の総残高に一律の割合を掛けて計算しません。
特定資産譲渡等損失額の制限も同時に確認する
合併前から含み損のあった土地、有価証券、その他の特定資産を合併後に処分するときは、引継ぎ欠損金とは別の損失制限を判定します。 欠損金の引継ぎができても、含み損資産の売却損が同期に損金になるとは限りません。
適格合併前から含み損を有する特定資産の譲渡等損失額には、欠損金と別の損金制限がかかる場合があります。
適格合併で引き継いだ被合併法人の未処理欠損金が、合併法人の白色申告事業年度に生じた額とみなされる場合でも、法人税法57条1項の繰越控除対象となる取扱いが示されています。
合併法人がもともと持つ欠損金にも制限が及ぶ場合がある

被合併法人から引き継ぐ側だけを調べると、存続会社側の欠損金制限を見落とします。
両社の欠損金を一枚の年度別明細にする
合併法人の自社欠損金、被合併法人から引き継ぐ欠損金、合併後に発生する所得を年度軸で並べ、利用順序と制限額を計算します。 合併により「欠損金が合算される」という総額だけで税効果を評価しません。
逆さ合併の存続会社選択は商号や手続だけで決めない
規模の小さい法人を存続会社にする案では、適格要件、欠損金制限、許認可、契約承継、登記、会計システムを両案で比較します。 欠損金を残すためだけの形式的な存続会社選択は、取引全体の事業目的と整合させます。
繰越欠損金の価値は引継ぎ可能額と利用可能期間から計算する

引き継げる残高と、実際に税金を減らせる価値は同じではありません。
合併後の所得計画に年度別欠損金を充当する
合併後の売上、利益、償却、金融費用を予測し、欠損金の残存期間内に控除できる所得があるかを年度別に計算します。 欠損金5億円に税率を掛けた額を、そのまま合併メリットにしません。
例えば、被合併法人の欠損金5億円のうち3億円が引継ぎ可能で、残存期間3年、合併後所得が毎年1億円、仮定税率30%なら、3年間で使い切る前提の税負担軽減効果は概算9,000万円です。全額5億円に税率を掛けず、引継ぎ可能額と期限内の利用見込みの小さい方から評価します。
制限あり・なしの税引後キャッシュフローを比べる
全額引き継ぎ、一部制限、全額制限の三ケースで、法人税等、配当可能額、借入返済、統合費用を合わせて比較します。 合併後のシナジーは税前利益だけでなく、欠損金制限後の現金増加額で評価します。
合併契約前に要件判定メモと税効果台帳を固定する

合併期日後に初めて欠損金制限に気づいても、支配期間や事業統合の事実はやり直せません。
適格性、5年判定、共同事業性、欠損金額を別々に承認する
法務が合併契約、人事が従業者引継ぎ、事業部が統合計画、税務が要件判定と欠損金計算を担当し、最終契約前に一つの承認表へ集約します。 適格判定をした担当者と、欠損金制限を検証した担当者を明記します。
合併後は別表七と特定資産台帳を存続会社が引き継ぐ
被合併法人の申告データ、欠損金の発生根拠、資本関係図、含み損資産の評価書を存続会社の文書管理システムへ移します。 合併で法人が消滅しても、欠損金と特定資産の立証資料は存続会社が保存します。
適格合併の支配関係、事業関連性、従業者引継ぎ等の判定に関する基本的な取扱いが示されています。
合併後の欠損金は、存続会社の別表七等で発生年度、引継ぎ額、控除額を継続管理します。
出典:国税庁 法人税申告手続
適格合併の繰越欠損金引継ぎでよくある質問

適格合併なら欠損金は必ず全額引き継げますか?
必ずではありません。特定資本関係の継続期間とみなし共同事業要件等による引継ぎ制限を確認します。
5年は合併期日から数えますか?
一般には合併法人の合併事業年度開始日の5年前の日と特定資本関係発生日を比較します。
共同事業要件は同業種なら満たしますか?
業種名だけでは判定できません。事業関連性、規模、従業者引継ぎ、合併後の事業継続を事実で確認します。
存続会社が持つ欠損金は影響を受けませんか?
合併の関係と要件によっては存続会社側の欠損金にも制限が及ぶため、両社を一枚の明細で試算します。

