税制適格ストックオプションの7要件|非適格との差と改正点

ストックオプションを人材採用に使いたいが、税制適格の要件が多くてどこで外れるのかが分からない。うっかり非適格になると従業員に給与課税が発生すると聞いて、設計に踏み切れていない。
要件は7つで、どれか一つでも欠けると非適格です。適格なら権利行使時の課税がなくなり、株式を売ったときに譲渡益として課税されます。令和6年度改正で年間の権利行使価額の限度額が最大3,600万円へ上がり、株式の管理も発行会社自身でできるようになりました。
この記事でわかること
- 適格と非適格で課税がどう変わるか
- 7つの要件と外れやすい箇所
- 年間限度額が3段階になったこと
- 発行会社による株式管理が可能になったこと
- 権利行使価額の決め方
- 設計するときの手順
適格と非適格で課税が変わる

まず何が違うのかを押さえます。差が出るのは時期と税率の2つです。
非適格は権利行使した年に給与課税
譲渡制限の付されたストックオプションは、権利を行使した日の属する年分の給与所得として課税されます。
付与された時点では課税されません。譲渡して所得を実現させることができないためです。
行使時の株価と権利行使価額の差額が給与所得になります。株を売っていなくても課税されるので、納税資金を用意する必要があります。
適格なら売ったときまで繰り延べられる
要件を満たせば、権利行使して株式を取得した日の給与課税を繰り延べ、譲渡した年分の株式譲渡益として課税されます。
行使しただけでは課税されません。現金が入る売却のタイミングと課税のタイミングが一致します。
取得価額は権利行使価額です。行使時の時価ではありません。ここが繰り延べの実質になります。
税率の差が効いてくる
給与所得は超過累進で最大45%ですが、株式譲渡益は申告分離課税で20.315%です。
所得の高い人ほど差が大きくなります。国税庁のQ&Aも、給与所得の税率より株式譲渡益の税率が低い場合には税負担が軽減されると注記しています。
所得の低い人にとっては差が小さくなる場合もあります。全員に有利とは限りません。
| 区分 | 権利行使時 | 株式譲渡時 |
|---|---|---|
| 税制非適格 | 給与所得として課税 | 譲渡益に20.315% |
| 税制適格 | 課税なし | 譲渡益に20.315% |
所得の低い人にとっては差が小さくなる場合もあります。全員に有利とは限りません。
給与所得は所得税(超過累進税率)と復興特別所得税、住民税の所得割10%を合わせた概算です。株式譲渡益は申告分離課税として所得税15%、復興特別所得税0.315%、住民税5%の合計20.315%で計算しています。実際の負担は他の所得や控除の状況で変わります。
7つの要件をすべて満たす

契約に定めておく内容が決まっています。ひとつでも欠けると非適格です。
付与対象者と行使期間
発行会社の取締役等に付与されたものであり、付与決議の日後2年を経過した日から10年を経過する日までの間に行使することが必要です。
設立の日以後の期間が5年未満で上場株式等の発行者以外の会社など、一定の要件を満たす会社の場合は15年までに延びます。
付与決議の日とは、新株予約権の割当てに関する決議の日をいいます。行使できる期間の起算点になります。
権利行使価額と年間の限度額
1株当たりの権利行使価額は、契約締結時における1株当たりの価額相当額以上でなければなりません。
契約時の時価より安く設定すると、その時点で非適格になります。株価の算定根拠を残しておいてください。
年間の権利行使価額の合計額にも上限があります。会社の設立年数と上場の状況で3段階に分かれます。
譲渡禁止と株式の管理
ストックオプション自体の譲渡が禁止されていること、取得した株式の保管が委託されることも要件です。
交付が会社法第238条第1項に定める事項に反しないで行われることも求められます。
保管の委託は、従来は金融商品取引業者等に限られていました。令和6年度改正で発行会社自身による管理も認められています。
| # | 要件 |
|---|---|
| 1 | 発行会社の取締役等に付与されたものであること |
| 2 | 付与決議の日後2年を経過した日から10年を経過する日までに行使すること |
| 3 | 権利行使価額の年間の合計額が限度額を超えないこと |
| 4 | 1株当たりの権利行使価額が契約締結時の価額相当額以上であること |
| 5 | ストックオプションの譲渡が禁止されていること |
| 6 | 株式の交付が会社法第238条第1項に定める事項に反しないこと |
| 7 | 取得した株式の保管の委託または発行会社による管理がされること |
保管の委託は、従来は金融商品取引業者等に限られていました。令和6年度改正で発行会社自身による管理も認められています。
年間限度額は3段階になった

令和6年度改正でいちばん大きく変わった部分です。会社の状況で上限が変わります。
設立5年未満なら2,400万円
設立の日以後の期間が5年未満の株式会社が付与するものは、年間の権利行使価額の限度額が2,400万円です。
改正前は一律1,200万円でした。創業間もない会社ほど大きな枠を使えるようになっています。
スタートアップの人材獲得力を高める趣旨の改正です。付与の設計を組み直す余地があります。
5年以上20年未満は3,600万円
設立5年以上20年未満で非上場会社、または上場の日以後の期間が5年未満の上場会社なら3,600万円です。
この区分がいちばん大きな枠になります。上場して間もない会社も対象に含まれる点が実務では重要です。
上場から5年を超えると、この枠は使えなくなります。付与の時期を早めるという判断もありえます。
それ以外は1,200万円のまま
上記のいずれにも当たらない会社は、従来どおり年間1,200万円です。
設立20年以上の会社や、上場から5年を超えた会社が該当します。枠を超えた部分は非適格として給与課税されます。
改正は令和6年4月1日から施行され、令和6年分以後の所得税について適用されます。令和5年分以前は従前の例によります。
| 会社の区分 | 年間の権利行使価額の限度額 |
|---|---|
| 設立5年未満 | 2,400万円 |
| 設立5年以上20年未満で非上場、または上場後5年未満 | 3,600万円 |
| 上記以外 | 1,200万円 |
改正は令和6年4月1日から施行され、令和6年分以後の所得税について適用されます。令和5年分以前は従前の例によります。
発行会社による株式管理ができる

非上場企業にとっては、限度額の引き上げと並ぶ実務上の緩和です。
証券会社への保管委託が必須ではなくなった
令和6年度改正で、発行会社と取締役等との間であらかじめ締結された取決めに従い、発行会社において株式を管理することも認められました。
従来は金融商品取引業者等への保管委託が要件でした。非上場企業には手続きの負担が大きい部分でした。
証券口座を用意しなくても適格性を保てるようになったため、設計のハードルが下がっています。
管理できるのは譲渡制限株式に限られる
この方法で管理できる株式は、譲渡制限株式に限られます。
譲渡制限が外れている株式は対象外です。定款や株式の内容を確認してから採用してください。
経済産業省が要件をまとめた手引きを公表しています。記載された要件を満たさない場合、適格性が失われるおそれがあります。
区分管理帳簿を作って保存する
発行会社は区分管理帳簿を権利者ごとに整理し、閉鎖の日の属する年の翌年から5年間保存します。
帳簿の様式と記載事項は手引きに定められています。運用を始める前に整備してください。
管理を誤ると適格性が失われ、従業員に給与課税が生じます。責任の所在を社内で決めておく必要があります。
管理を誤ると適格性が失われ、従業員に給与課税が生じます。責任の所在を社内で決めておく必要があります。
自社で管理する場合、要件を満たさないと適格性が失われます。失われた分の税負担は従業員に及ぶため、帳簿の整備と責任者の設定を先に済ませてください。
権利行使価額の決め方

ここで外れる例がいちばん多く、しかも後から直せません。
契約締結時の時価以上にする
1株当たりの権利行使価額は、契約を締結した時における1株当たりの価額相当額以上である必要があります。
安く設定すればするほど従業員の利益は大きくなりますが、時価を下回った瞬間に非適格になります。
決議日ではなく契約締結時が基準です。決議から契約まで日が空くと株価が動くことがあります。
非上場は算定の根拠を残す
非上場株式は市場価格がないため、どう算定したかを説明できる資料が要ります。
直近の増資の払込価額、純資産価額、類似業種比準など、複数の考え方があります。採用した方法と計算過程を保存してください。
資金調達の直後は株価が動きます。ラウンドの前後どちらで付与するかで、従業員の手取りが変わります。
後から下げることはできない
付与後に株価が下がっても、権利行使価額を引き下げると適格要件を満たさなくなるおそれがあります。
条件変更は慎重に判断してください。国税庁は契約内容を非適格から適格に変更した場合の取扱いを示していますが、逆は簡単ではありません。
業績が読みにくい段階では、付与の量を抑えて複数回に分けるほうが安全です。
業績が読みにくい段階では、付与の量を抑えて複数回に分けるほうが安全です。
権利行使価額は契約締結時の時価が下限です。決議日と契約日がずれる場合、どちらの株価を使うかを事前に確認してください。
適格と非適格で手取りがいくら違うか

数字にすると、要件を守る意味がはっきりします。
行使益1,000万円で比べる
権利行使価額200万円の株を行使時の時価1,200万円で取得し、その後1,500万円で売却した場合を考えます。
非適格なら行使時に1,000万円が給与所得です。他の給与と合算されるため、もともとの課税所得が900万円の人なら所得税と住民税で約444万円になります。
売却時にはさらに、時価1,200万円との差額300万円に対して約61万円がかかります。合計は約505万円です。
適格なら売却時にまとめて課税
適格なら行使時の課税はなく、譲渡益1,300万円に20.315%で約264万円です。
非適格の合計約505万円と比べると240万円ほどの差が出ます。従業員の手取りがそれだけ変わります。
しかも非適格では、株を売る前に約444万円を納める必要があります。現金がない段階での納税は現実的に厳しくなります。
所得の低い人では差が縮む
課税所得が低い帯なら、給与所得の税率が20.315%を下回ることもあります。
その場合は非適格のほうが有利になる場面もありえます。ただし行使時に納税資金が必要になる点は変わりません。
付与対象者の所得水準を踏まえて説明してください。一律に適格が得だと伝えると、後で齟齬が出ます。
| 区分 | 行使時の税負担 | 譲渡時の税負担 | 合計の目安 |
|---|---|---|---|
| 非適格 | 約444万円(給与所得) | 約61万円 | 約505万円 |
| 適格 | なし | 約264万円 | 約264万円 |
給与所得は所得税(超過累進税率)と復興特別所得税、住民税の所得割10%を合わせた概算です。株式譲渡益は申告分離課税として所得税15%、復興特別所得税0.315%、住民税5%の合計20.315%で計算しています。実際の負担は他の所得や控除の状況で変わります。
設計するときの手順

順序があります。株価の算定を先にしないと後戻りできません。
会社の区分と限度額を確定する
まず設立からの年数と上場の状況を確認して、年間の限度額を決めます。
2,400万円か3,600万円か1,200万円か。ここで付与できる総量が決まります。
上場から5年を超えると枠が縮むため、時間の制約があるかどうかもこの段階で分かります。
株価を算定して権利行使価額を決める
契約締結時の1株当たりの価額を算定し、それ以上の権利行使価額を設定します。
算定方法と計算過程を文書で残します。後から根拠を求められたときに出せなければ意味がありません。
資金調達を予定しているなら、ラウンドの前後どちらで契約するかを決めてください。株価が変われば設計も変わります。
契約書に7要件を落とし込む
付与契約に、行使期間、譲渡禁止、株式の管理方法を明記します。
行使期間は付与決議の日を起算点にします。決議日と契約日を取り違えないでください。
株式の管理を自社で行うなら、区分管理帳簿の様式と責任者を先に決めます。運用開始後に整えるのでは間に合いません。
外れやすいところ

非適格になると従業員に給与課税が生じます。よくある型を挙げます。
2年以内に行使してしまう
行使できるのは付与決議の日後2年を経過した日からです。
早期に退職する人へ配慮して行使を認めると、その分が非適格になります。付与契約に期間を明記してください。
M&Aや上場で早期の行使が必要になる場面もあります。設計段階で想定しておく必要があります。
年間限度額を超える
同じ年に複数回行使して合計が限度額を超えると、超えた部分が非適格になります。
複数回付与している場合、従業員側で合算されます。会社が把握していないと管理できません。
行使の申請時に、その年の累計を確認する運用にしてください。
株式の管理が要件を満たさない
自社で管理する場合、手引きに記載された方法から外れると適格性が失われるおそれがあります。
区分管理帳簿の記載漏れ、保存期間の未達、譲渡制限が外れた株式を混ぜてしまうといった例が考えられます。
手間を惜しむなら、証券会社への保管委託を選ぶほうが確実です。どちらが自社に合うかで判断してください。
手間を惜しむなら、証券会社への保管委託を選ぶほうが確実です。どちらが自社に合うかで判断してください。
税制適格ストックオプションに関するよくある質問

実務へ落とし込むときに、相談として多く寄せられる論点をまとめます。
税制適格だと税金はいつかかりますか?
課税は株式を譲渡したときです。
権利行使したときには課税されず、取得した株式を譲渡した年分の株式譲渡益として課税されます。取得価額は権利行使価額で、行使時の時価ではありません。現金が入る売却のタイミングと課税のタイミングが一致します。
年間の権利行使価額の上限はいくらですか?
設立5年未満なら年2,400万円です。
会社の区分で3段階です。設立5年未満なら2,400万円、設立5年以上20年未満で非上場または上場後5年未満なら3,600万円、それ以外は1,200万円です。令和6年4月1日から施行され、令和6年分以後の所得税に適用されます。
証券会社に預けないとだめですか?
発行会社による管理も認められています。
令和6年度改正で、発行会社と取締役等との間であらかじめ締結された取決めに従い発行会社が管理する方法も認められました。ただし管理できるのは譲渡制限株式に限られ、区分管理帳簿の作成と5年間の保存が必要です。
権利行使価額はいくらに設定できますか?
契約締結時の時価以上が必要です。
契約を締結した時における1株当たりの価額相当額以上でなければなりません。時価を下回ると非適格になります。非上場株式は市場価格がないため、採用した算定方法と計算過程を文書で残してください。
付与してすぐ行使できますか?
行使できるのは付与決議の日後2年を経過してからです。
できません。付与決議の日後2年を経過した日から、付与決議の日後10年を経過する日までの間に行使する必要があります。設立5年未満で上場株式等の発行者以外の会社など一定の要件を満たす場合は15年までです。
非適格になると何が起きますか?
権利行使した年に給与所得として課税されます。
権利行使した日の属する年分の給与所得として課税されます。株を売っていなくても課税されるため、従業員が納税資金を用意する必要があります。課税所得900万円の人が行使益1,000万円を得ると、所得税と住民税で約444万円の負担になります。



