節税スキームはなぜ規制されるのか|封じられた手法と共通点

提案された節税商品が、あとから規制されて使えなくなるのではないかと不安がある。過去に封じられた手法があることは知っているが、何が問題だったのかまでは整理できていない。
封じられた手法には共通点があります。経済的な実態に対して損金の額が大きすぎること、時期をずらしているだけで最終的な負担が変わらないこと、制度の趣旨から外れた使い方であること。この3つのどれかに当てはまるなら、規制される可能性を見込んで設計してください。
この記事でわかること
- 節税保険がどう規制されたか
- 海外中古不動産が封じられた理由
- 貸付用の少額資産が除外された経緯
- 封じられた手法に共通する3つの型
- 行為計算の否認という別の入口
- 提案を受けたときの確認事項
節税保険は返戻率で区切られた

いちばん規模の大きかった規制です。全額損金という売り文句がここで消えました。
最高解約返戻率で資産計上割合が決まる
保険期間3年以上の定期保険等で最高解約返戻率が50%を超えるものは、区分に応じて資産計上することになりました。
50%超70%以下なら支払保険料の40%、70%超85%以下なら60%を、保険期間の40%相当期間まで資産に計上します。
85%超はさらに厳しく、当初10年間は支払保険料の90%を資産計上します。全額を損金にするという設計が成り立たなくなりました。
解約返戻金という実態を見て課税する
規制の理屈は単純で、解約すれば戻ってくる部分は費用ではなく資産だということです。
返戻率が高いほど前払いの性格が強くなります。それを全額損金にするのは、支出の実態と合っていないという整理です。
保険としての保障を否定したわけではありません。損金にする時期を実態に合わせただけです。
小さいものは対象外
最高解約返戻率が70%以下で、年換算保険料相当額が一の被保険者につき合計30万円以下なら通常の取扱いです。
福利厚生として小規模に使うぶんには影響しません。狙われたのは大口の前払いです。
この線引きの置き方も、規制の目的が実態との乖離にあったことを示しています。
| 最高解約返戻率 | 資産計上額 | 資産計上期間 |
|---|---|---|
| 50%超70%以下 | 支払保険料の40% | 保険期間の40%相当期間まで |
| 70%超85%以下 | 支払保険料の60% | 保険期間の40%相当期間まで |
| 85%超(当初10年) | 支払保険料の90% | 最高返戻率となる期間の終了まで |
| 70%以下かつ年30万円以下 | 全額損金 | 資産計上なし |
この線引きの置き方も、規制の目的が実態との乖離にあったことを示しています。
海外中古不動産は損失が消された

個人の所得税で使われていた手法です。制度を止めるのではなく、効果だけを消しました。
簡便法で短い耐用年数を作っていた
築古の建物を買うと簡便法で耐用年数を最短4年まで短縮できます。
日本の木造の法定耐用年数は22年で、これを大きく超えて経過した建物なら4年で償却できます。
海外では築年数が古くても建物価格の比率が高く、価値も落ちにくい。ここに目をつけた手法でした。
損失を給与所得と通算していた
減価償却で作った赤字を給与所得などと損益通算して所得税を減らすという使い方です。
高所得者ほど効果が大きく、数年後に売却すれば譲渡所得の低い税率で回収できるという設計でした。
実際には価値が落ちていないのに、税務上だけ大きく費用が出る。ここが問題視されました。
令和3年から損失はなかったものとみなされる
国外中古建物の不動産所得の損失のうち、簡便法により計算した減価償却費に相当する部分は生じなかったものとみなされます。
国内の不動産所得との内部通算もできませんし、給与所得などとの損益通算もできません。
制度そのものを禁止したのではなく、効果を打ち消しています。規制の典型的な形です。
制度そのものを禁止したのではなく、効果を打ち消しています。規制の典型的な形です。
貸付用の少額資産が除外された

設備を買って貸すという形で損金を作る手法が対象になりました。
買ってすぐ貸して全額損金にしていた
少額の資産を大量に取得し、それをリース会社などへ貸し付けて即座に損金にする手法がありました。
10万円未満なら全額、30万円未満なら特例で全額を経費にできます。これを事業と無関係に大量に使う例が出ました。
ドローンや建設用足場、LED照明などが使われました。自分では使わず貸すだけという点が共通しています。
主要な事業として行われる貸付け以外は対象外
現在は少額減価償却資産の特例も一括償却資産も、貸付けの用に供したものは対象から除かれます。
ただし主要な事業として行われる貸付けは除かれません。リース会社が本業として行う貸付けまで止める趣旨ではないためです。
本業かどうかで線を引いています。節税のために貸付事業をこしらえる形は通りません。
即時償却の制度は残っている
少額資産の規制は、経営強化税制などの制度そのものを否定するものではありません。
自社の事業に使う設備を取得して即時償却するのは、制度が想定している使い方です。ここは変わっていません。
封じられたのは、事業実態のない貸付けを介在させて損金だけを作る形です。
封じられたのは、事業実態のない貸付けを介在させて損金だけを作る形です。
封じられた手法に共通する3つの型

個別の制度を覚えるより、この3つで判定するほうが実務的です。
実態に対して損金が大きすぎる
支出の経済的な実態に比べて、税務上の費用が過大になっているものは狙われます。
節税保険がこれです。解約すれば戻ってくるのに全額を費用にしていました。海外中古不動産も、価値が落ちていないのに大きく償却していました。
提案を受けたら、その支出のうち実際に失われる部分がいくらかを考えてください。そこと損金額が離れているほど危うくなります。
時期をずらしているだけ
総額は変わらず、今年の損金を増やして将来に戻ってくるだけのものも見直されやすくなります。
即時償却は本来この性格ですが、制度として認められている範囲なら問題ありません。危ないのは制度の外で同じ効果を作る形です。
出口で必ず課税されます。出口の説明がない提案は、その時点で信用しないでください。
制度の趣旨から外れている
設備投資を促す制度を投資の実態なく使う、といった使い方は封じられます。
貸付用資産の除外がこれです。事業のために設備を持つという前提が崩れているため、制度の対象から外されました。
その制度が何のために作られたかを確認してください。目的と自社の使い方が一致していれば、規制されるリスクは低くなります。
| 型 | 何が問題か | 実例 |
|---|---|---|
| 実態と損金の乖離 | 戻ってくる部分まで費用にしている | 節税保険、海外中古不動産 |
| 時期の繰り延べだけ | 出口で課税され総額は変わらない | 制度外の即時償却まがい |
| 制度の趣旨との不一致 | 投資の実態なく制度を使う | 貸付用の少額資産 |
3つのどれかに当てはまるなら、いま合法でも将来使えなくなる前提で設計してください。すでに契約したものが遡って否認されることは通常ありませんが、続けられなくなります。
行為計算の否認という別の入口

個別の規制がなくても否認される道があります。ここが本当のリスクです。
不当に税を減らす計算は否認できる
同族会社等の行為または計算で法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるものは、税務署長が否認できます。
法人税法に定めがあり、所得税や相続税にも同様の規定があります。個別の禁止規定がなくても適用されます。
形式的に法令に従っていても、経済的な合理性を欠いていれば対象になりうるという点が重要です。
事業目的があるかが分かれ目
判断のポイントは税負担の軽減以外に事業上の目的があるかです。
同じ取引でも、事業のために必要でその結果として税が減ったのか、税を減らすためだけに仕組んだのかで扱いが変わります。
議事録や稟議書に、事業上の理由をきちんと書き残してください。後から作れるものではありません。
重加算税につながることもある
仮装や隠蔽があると判断されれば、過少申告加算税ではなく重加算税の対象になります。
契約書の日付を遡らせる、実体のない役務提供の対価を計上するといった行為がこれにあたります。
節税と脱税の境目はここです。事実を偽っていないかを、実行前に確認してください。
個別の規制がないことは、否認されないことを意味しません。税負担の軽減以外に事業上の目的があるかを、実行前に文書で説明できるようにしてください。
改正は毎年の大綱で決まる

急に決まるわけではありません。予兆を読む方法があります。
12月の大綱で方向が出る
毎年12月に閣議決定される税制改正の大綱で、その先の方向が示されます。
令和8年度の大綱は令和7年12月26日に閣議決定されました。ここに書かれた内容が翌年度の法改正になります。
検討事項として書かれた段階のものもあります。名指しで挙がっていれば、その手法は数年内に見直される可能性が高くなります。
適用は取得や契約の日で決まる
改正には施行日があり、その日以後に取得や契約をするものから適用されるのが通常です。
すでに契約済みのものは、原則として従来どおりの扱いが続きます。遡って否認されることは通常ありません。
ただし継続的な支出は、改正後の事業年度から新しい扱いになることがあります。契約時点だけで判断しないでください。
基準額の見直しも定期的に入る
令和8年度改正では少額減価償却資産の取得価額が30万円未満から40万円未満へ引き上げられました。
規制の方向だけでなく、使いやすくする方向の改正もあります。金額の線は定期的に点検されます。
設備の取得時期を決めるときは、その年度の改正内容を確認してください。数万円の差で扱いが変わることがあります。
設備の取得時期を決めるときは、その年度の改正内容を確認してください。数万円の差で扱いが変わることがあります。
提案を受けたときに確認すること

その場で判断せず、この順で聞いてください。
出口でどうなるか説明させる
いちばん重要なのは、何年後にいくら戻ってきて、そのときどう課税されるかです。
説明できない、あるいは入口の損金額しか語らない提案は避けてください。総額で損得を見るための前提が欠けています。
解約返戻金、売却価額、退職金としての受け取り。どの形で出るのかを数字で確認します。
根拠となる条文や通達を示させる
その扱いがどの条文や通達に基づくのかを書面で確認します。
国税庁のタックスアンサーや通達の番号が出てくるなら、自分でも原典に当たれます。
他社もやっている、税務署に否認された例がないという説明は根拠になりません。
事業上の必要性を説明できるか
税負担の軽減を外して、その支出に事業上の理由があるかを自問してください。
説明できないなら、行為計算の否認の対象になりうる領域です。稟議書に書ける理由があるかで判断できます。
必要な設備を買うついでに制度を使う。この順序であれば問題は起きにくくなります。
すでに契約しているとき

慌てて解約すると損をします。順序があります。
遡って否認されることは通常ない
改正は施行日以後の取得や契約に適用されるので、過去の申告が遡って否認されることは通常ありません。
契約済みの保険であれば、契約時点のルールで処理を続けられる場合が多くあります。慌てる必要はありません。
ただし新規の追加や更新は改正後の扱いになります。同じつもりで続けないでください。
解約のタイミングで課税される
保険を解約すれば解約返戻金と資産計上額の差額が益金になります。
損金にした分がここで戻ってきます。利益が出ている年に解約すると、節税したはずが結局課税されます。
役員退職金の支給時期に合わせるなど、出口をぶつける設計が必要です。
出口の設計をやり直す
いま契約しているものについて、いつどう終わらせるかの計画を立て直します。
契約書と設計書を集め、返戻率の推移と資産計上額の残高を確認してください。ここが出発点です。
顧問税理士と共有していない契約があるなら、まずそこから共有してください。
節税スキームの規制に関するよくある質問

実務へ落とし込むときに、相談として多く寄せられる論点をまとめます。
節税保険はもう使えないのですか?
全額損金にはできませんが制度自体は使えます。
使えますが、全額を損金にすることはできなくなりました。最高解約返戻率が50%を超えると区分に応じて資産計上します。最高解約返戻率が70%以下で年換算保険料相当額が一の被保険者につき合計30万円以下なら、通常の定期保険の取扱いです。
海外の中古不動産は買ってはいけないのですか?
購入は自由ですが損益通算による効果がなくなりました。
購入自体に制限はありません。令和3年以後、国外中古建物から生じた不動産所得の損失のうち簡便法で計算した減価償却費に相当する部分が生じなかったものとみなされるだけです。損益通算による節税効果がなくなったということです。
即時償却も規制されるのですか?
事業に使う設備なら制度が想定している使い方です。
自社の事業に使う設備を取得して即時償却するのは制度が想定している使い方で、規制の対象ではありません。封じられたのは、事業実態のない貸付けを介在させて損金だけを作る形です。令和8年度改正では対象額が40万円未満へ拡大されています。
過去の申告が遡って否認されますか?
改正による遡及は通常ありません。
改正は施行日以後の取得や契約に適用されるのが通常なので、遡って否認されることは通常ありません。ただし新規の追加や契約更新は改正後の扱いになります。また個別の規制とは別に、行為計算の否認は改正の有無にかかわらず適用されます。
個別の規制がなければ大丈夫ですか?
個別の規制がなくても行為計算の否認があります。
そうとは限りません。同族会社等の行為または計算で税の負担を不当に減少させる結果となると認められるものは、個別の禁止規定がなくても否認できます。税負担の軽減以外に事業上の目的があるかが分かれ目になります。
提案を受けたら何を確認すればいいですか?
まず出口の金額と課税を説明させてください。
出口でいくら戻ってきてどう課税されるか、根拠となる条文や通達は何か、税負担の軽減を外しても事業上の必要性を説明できるか。この3つです。入口の損金額しか語らない提案や、他社もやっているという説明は根拠になりません。



