個人事業主の家賃は経費になるか|家事按分の考え方と根拠の残し方

自宅で仕事をしているので家賃を経費に入れたいが、どこまで入れてよいのか分からない。半分でいいと聞くこともあれば、税務調査で否認されたという話も聞く。根拠として何を残せばいいのかもはっきりしない。
自宅兼事務所の家賃は、業務の遂行上直接必要だったことが明らかに区分できる金額に限って必要経費になります。区分の物差しは床面積が基本で、時間で区切る使い方なら使用時間も併用します。決めた基準を書いて残し、毎年同じ基準で計算することが実務上いちばん重要です。
この記事でわかること
- 家事関連費が経費になる条件
- 床面積と使用時間による按分の考え方
- 持ち家の場合に経費にできるもの
- 生計を一にする親族の家に払う家賃の扱い
- 水道光熱費や通信費の按分
- 税務調査で見られる根拠の残し方
家賃が経費になる条件

まず押さえるのは、家賃が家事関連費という枠に入るという点です。全額が自動で経費になる支出ではありません。
明らかに区分できる金額だけ
家事関連費のうち経費になるのは、業務の遂行上直接必要だったことが明らかに区分できる金額に限られます。
国税庁のタックスアンサーはこの言い回しで範囲を定めています。区分できないものは、業務に使っている実感があっても経費になりません。
つまり必要なのは「どこまでが業務用か」を数字で説明できる状態です。感覚で半分と決めるのではなく、基準を先に置きます。
債務が確定していることも必要
必要経費はその年に債務が確定した金額で計上します。
12月31日までに債務が成立し、給付すべき原因となる事実が発生し、金額が合理的に算定できていることが要件です。支払ったかどうかではありません。
12月分の家賃を翌年1月に払っていても、12月分として債務が確定していればその年の経費になります。
賃貸か持ち家かで中身が変わる
賃貸なら家賃そのものですが、持ち家では家賃という支出がありません。
持ち家の場合は減価償却費、固定資産税、住宅ローンの利息部分、火災保険料などを按分して経費にします。ローンの元本返済分は経費になりません。
どちらの場合も、按分の考え方は同じです。業務に使う部分を区分できる基準で切り出します。
どちらの場合も、按分の考え方は同じです。業務に使う部分を区分できる基準で切り出します。
床面積と使用時間で区分する

区分の物差しは面積が基本です。専用の部屋がないときに時間の要素が入ってきます。
専用の部屋があるなら床面積
仕事専用の部屋があるなら、その部屋の床面積を全体の床面積で割るのがいちばん説明しやすい方法です。
60平方メートルの住居のうち12平方メートルを仕事部屋にしているなら20%です。家賃12万円なら月2.4万円、年間28.8万円が経費になります。
廊下や玄関など共用部分をどう扱うかで数字は動きます。仕事部屋だけで計算するほうが保守的で、説明も簡単です。
共用の部屋なら使用時間も掛ける
リビングで仕事をしているなら、床面積の割合に使用時間の割合を掛ける形になります。
リビングが全体の30%で、そのうち1日8時間を平日だけ業務に使うなら、30%×(8÷24)×(5÷7)でおよそ7.1%です。
生活と混ざっている空間ほど割合は下がります。無理に高い割合を取ると説明が破綻するので、実態どおりに落とすほうが安全です。
毎年同じ基準で計算する
いったん決めた基準は、働き方が変わらない限り毎年同じものを使います。
年ごとに割合が動くと、根拠のない数字だと見られやすくなります。引っ越しや間取りの変更があった年は、変更点を記録して新しい基準に切り替えます。
基準を変えた年は、その理由を書いたメモを残しておくと後から説明できます。
| 使い方 | 按分の物差し | 計算例 |
|---|---|---|
| 仕事専用の部屋がある | 床面積の割合 | 12㎡÷60㎡=20% |
| 共用の部屋で仕事 | 床面積×使用時間 | 30%×8÷24×5÷7=約7.1% |
| 時間で区切って専有 | 使用時間の割合 | 1日8時間÷24時間=約33% |
面積と時間はいずれも例示です。実際の割合は間取りと働き方で決まります。根拠として説明できる数字であることが要件で、特定の割合が認められているわけではありません。
持ち家のときに経費にできるもの

持ち家には家賃がないので、建物にかかる費用を分解して考えます。
減価償却費と固定資産税を按分する
建物の減価償却費と固定資産税を業務割合で按分します。
建物の取得価額を耐用年数で割った額のうち、業務に使う割合分が経費です。土地は減価償却しません。
火災保険料や修繕費も同じ割合で按分します。仕事部屋だけを直した修繕なら、その部分は全額を経費にできる余地があります。
ローンは利息部分だけ
住宅ローンのうち経費になるのは利息部分だけで、元本の返済は対象外です。
元本の返済は借入金の返済であって費用ではありません。返済予定表で元本と利息を分け、利息分に業務割合を掛けます。
住宅ローン控除を受けている場合は、業務に使う割合が大きいと控除額が調整されることがあります。両方を取りにいくときは事前に確認してください。
生計を一にする親族の家は扱いが違う
親や配偶者が所有する家に家賃を払っても、その家賃は必要経費になりません。
生計を一にする親族へ支払う地代家賃は、必要経費に算入できないと定められています。同じ財布のなかでお金が動いただけと見るためです。
ただしその親族がその家について負担している固定資産税や減価償却費のうち、業務に使う部分は経費にできます。家賃の名目で払うかどうかとは別の話です。
| 支出 | 経費になるか |
|---|---|
| 建物の減価償却費 | 業務割合で按分 |
| 固定資産税 | 業務割合で按分 |
| 住宅ローンの利息 | 業務割合で按分 |
| 住宅ローンの元本 | ならない |
| 生計を一にする親族へ払う家賃 | ならない |
ただしその親族がその家について負担している固定資産税や減価償却費のうち、業務に使う部分は経費にできます。家賃の名目で払うかどうかとは別の話です。
水道光熱費と通信費も同じ考え方

家賃と一緒に按分するものがいくつかあります。それぞれ物差しが違います。
電気代は面積か使用時間
電気代は家賃と同じ床面積の割合で按分するのが一般的です。
仕事で特定の機器を長時間使うなら、使用時間で按分するほうが実態に合うこともあります。どちらの物差しを使ったかを記録しておきます。
水道代とガス代は、業務との結びつきを説明しにくい支出です。飲食業のように業務で使うことが明らかな場合を除き、無理に入れないほうが安全です。
通信費は使用時間や回線で分ける
インターネット回線と携帯電話は、業務での使用時間や使用実績で按分します。
業務専用の回線や番号を分けておけば、その分は全額を経費にできます。分けるほうが説明の手間はずっと減ります。
一つの回線を共用しているなら、平日の稼働時間から割合を出して固定します。
按分しないという選択もある
金額が小さければ、按分せず経費に入れないという判断も現実的です。
按分の根拠を作る手間と、経費にできる金額を比べて決めます。年間で数千円のために説明資料を作る必要はありません。
家賃のように金額が大きいものだけ丁寧に根拠を作り、細かいものは割り切るという整理が実務的です。
| 費目 | 按分の物差し | 備考 |
|---|---|---|
| 家賃・地代 | 床面積 | 共用なら使用時間も |
| 電気代 | 床面積または使用時間 | 機器の稼働が長いなら時間 |
| インターネット回線 | 使用時間 | 業務専用回線なら全額 |
| 携帯電話 | 使用実績 | 番号を分けると簡単 |
| 水道・ガス | 業務との関連が説明できる場合のみ | 多くは対象外 |
根拠として残しておくもの

按分は自分で決める数字です。だからこそ、決めた過程を残せるかどうかで結果が変わります。
間取り図に業務スペースを書き込む
いちばん効くのは間取り図に業務で使う範囲と面積を書き込んだものです。
賃貸契約書に付いている図面を印刷し、仕事部屋を塗って面積を書き込むだけで十分です。写真を添えるとさらに説明しやすくなります。
この一枚があるかないかで、税務調査での説明のしやすさがまったく違います。
計算式を書いたメモを作る
採用した物差しと計算式を書いた一枚のメモを残します。
「床面積12㎡÷全体60㎡=20%。家賃12万円×20%×12か月=28.8万円」という程度で構いません。
翌年以降も同じメモを使い回せます。基準を変えた年だけ、変更理由を書き足します。
契約書と支払いの記録を揃える
賃貸借契約書と、実際に支払ったことが分かる通帳や明細を揃えます。
契約書の名義が事業主本人かどうかも見られます。名義が違う場合は、実際に負担していることを説明できるようにしておきます。
青色申告なら帳簿と関係書類は原則7年間の保存が必要です。按分の根拠資料も同じ場所にまとめておくと探す手間が減ります。
否認されやすいパターン

指摘を受けるのは、割合そのものより説明できないことが原因である場合がほとんどです。
根拠なく半分にしている
いちばん多いのが根拠を示さずに50%としているケースです。
半分という数字が禁じられているわけではありません。ワンルームで日中ずっと仕事をしているなら成り立つこともあります。
問題なのは、なぜ半分なのかを説明できないことです。面積か時間か、どちらの物差しで半分になったのかを言えるようにしておきます。
実態と合っていない
外に出ている時間が長いのに自宅の按分割合が高いと、整合が取れません。
訪問中心の仕事で自宅にいる時間が短いなら、割合は自然に下がります。事業の中身と按分が食い違うと、そこから全体を疑われます。
自宅を保管や事務にしか使っていないなら、その用途に見合った面積で計算します。
年によって割合が動く
毎年理由なく割合が変わっていると根拠のない数字と見られます。
利益が出た年だけ割合を上げるような動かし方は、意図を疑われるいちばんの原因です。
働き方が変わったなら変えて構いません。変えた理由を書いて残すことがすべてです。
按分割合に法律で決まった上限はありません。数字そのものより、その数字に至った物差しを説明できるかどうかが判断の分かれ目になります。
経費にしたときに減る税額

どのくらい効くのかを、所得の水準ごとに見ておきます。
家賃12万円で20%なら年28.8万円
月12万円の家賃を20%で按分すると、年間28.8万円が経費になります。
課税所得400万円の人なら所得税率20%の帯です。28.8万円を差し引くと所得税と復興特別所得税でおよそ5.9万円減ります。
住民税の所得割をおおむね10%として加えると、合計でおよそ8.7万円です。
所得が上がるほど効果も上がる
同じ28.8万円でも、課税所得1,000万円なら税率33%の帯で計算します。
所得税と復興特別所得税でおよそ9.7万円、住民税を加えるとおよそ12.6万円になります。所得が高いほど1円の経費が生む効果は大きくなります。
逆に課税所得195万円以下の帯なら税率5%です。同じ経費でも所得税と復興特別所得税は約1.5万円にとどまります。
経費より先に控除を埋める
家賃の按分は有効ですが、青色申告特別控除65万円のほうが先です。
こちらは現金を使わずに課税所得を65万円下げられます。按分の根拠を作る手間よりも先に、こちらを取り切っているか確認してください。
控除を埋めたうえで、実際に払っている支出を漏れなく按分するという順序になります。
| 課税所得 | 所得税率 | 28.8万円を経費にしたときの減税額(住民税込みの目安) |
|---|---|---|
| 300万円 | 10% | 約5.8万円 |
| 400万円 | 20% | 約8.7万円 |
| 1,000万円 | 33% | 約12.6万円 |
所得税(超過累進税率)と復興特別所得税(基準所得税額の2.1%)に、住民税の所得割を一律10%として加えた概算です。国民健康保険料の減少は含んでいません。控除により課税所得が下の税率帯へ移る場合は金額が変わります。
はじめて按分するときの手順

やることは多くありません。一度作れば翌年以降は使い回せます。
まず物差しを一つ決める
面積か時間か、どちらを主な物差しにするかを先に決めます。
専用の部屋があるなら面積だけで済みます。共用なら面積と時間の組み合わせです。ここが決まれば計算は機械的に終わります。
複数の費目でばらばらの物差しを使っても構いません。費目ごとにどれを使ったかを記録しておきます。
地代家賃として帳簿に入れる
計算した金額を地代家賃の勘定科目で計上します。
毎月按分して計上しても、年末にまとめて1回で計上しても構いません。まとめる場合は、家事使用分を差し引く形の仕訳になります。
会計ソフトには家事按分の機能があるものが多く、割合を登録しておけば自動で振り分けてくれます。
確定申告書に按分割合を書く
青色申告決算書には、地代家賃の内訳と支払先を記載する欄があります。
ここに書いた内容と帳簿が食い違わないようにします。支払先の氏名と住所、年間の支払額、そのうち必要経費に入れた額を書きます。
書いた金額の裏付けが、間取り図と計算メモです。ここまで揃っていれば説明で困ることはありません。
個人事業主の家賃の経費計上に関するよくある質問

実務へ落とし込むときに、相談として多く寄せられる論点をまとめます。
自宅の家賃は何割まで経費にできますか?
上限はなく、説明できる割合であるかどうかが基準です。
法律で決まった上限はありません。業務の遂行上直接必要だったことが明らかに区分できる金額に限られるため、床面積や使用時間から説明できる割合であれば通ります。逆に説明できなければ、割合が低くても指摘の対象になります。
持ち家でも経費にできますか?
減価償却費や固定資産税を業務割合で按分します。
できます。家賃という支出はありませんが、建物の減価償却費、固定資産税、火災保険料、住宅ローンの利息部分を業務割合で按分します。ローンの元本返済分は費用ではないため対象外です。
実家に家賃を払っている場合はどうなりますか?
生計を一にする親族への家賃は必要経費になりません。
生計を一にする親族へ支払う地代家賃は必要経費になりません。ただしその親族がその家について負担している固定資産税や減価償却費のうち、業務に使う部分は経費にできます。生計が別であれば通常の家賃として扱います。
水道代やガス代も経費になりますか?
業務との関連を説明できる場合に限られます。
業務との結びつきを説明できる場合に限られます。飲食業のように業務で水を使うことが明らかなら按分できますが、事務作業が中心なら関連を示しにくく、入れないほうが安全です。電気代は床面積や使用時間で按分できます。
按分の根拠は何を残せばいいですか?
間取り図と計算式を書いたメモが効きます。
間取り図に業務で使う範囲と面積を書き込んだもの、採用した物差しと計算式を書いたメモ、賃貸借契約書、支払いが分かる通帳や明細の4点です。青色申告なら帳簿と関係書類は原則7年間保存します。
途中で引っ越したらどう計算しますか?
前後で分けて計算し、新しい間取り図と計算メモを作ります。
引っ越し前と後で別々に計算し、それぞれの期間分を合算します。間取りが変わるので割合も変わります。新しい間取り図と計算メモを作り、いつから基準を変えたかを記録しておけば説明できます。


