役員退職金の決め方|功績倍率法・損金算入要件・2026年改正の注意点

「そろそろ勇退を考えているが、退職金はいくらまで出せるのか」。役員退職金は法人側で大きな損金になり、受け取る側でも税負担が軽い制度です。ところが金額の根拠を用意しないまま支給すると、税務調査で「不相当に高額」と判断され、超過部分がまるごと損金にならないという事態が起こります。
実務では最終報酬月額×勤続年数×功績倍率で算定するのが一般的で、代表取締役では功績倍率3.0倍前後が一つの目安とされています。ただしこれは法令で定められた数値ではなく、同業類似法人の支給状況などから総合的に判断されるため、算定根拠と株主総会の決議を書面で残すことが前提になります。
この記事でわかること
- 功績倍率法による役員退職金の算定と、金額の根拠の残し方
- 損金算入が認められるための要件と、損金にできる時期
- 退職所得控除と2分の1課税による個人側の税負担の軽さ
- 2026年1月から始まる退職所得課税の見直し内容
- 原資の準備方法と、支給までに必要な手続きの順序
役員退職金の決め方について、自社の場合はどうなるか無料で確認できます
決算月・利益の見込み・検討中の内容をお知らせいただければ、使える制度と注意すべき点を整理してご返信します。ご相談は無料です。
役員退職金とは?中小企業で効果が大きい理由

役員退職金は、法人側では大きな損金、受け取る個人側では税負担の軽い退職所得として扱われます。この二面性が、ほかの節税策にない特徴です。
| 立場 | 税務上の扱い | 効果 |
|---|---|---|
| 法人 | 適正額の範囲で損金算入 | 課税所得を大きく圧縮できる |
| 個人 | 退職所得として分離課税 | 退職所得控除と2分の1課税で負担が軽い |
| 社会保険 | 退職金は報酬に当たらない | 社会保険料の対象にならない |
役員報酬で受け取るより手取りが多くなりやすい
同じ金額を役員報酬として受け取ると給与所得として総合課税されますが、退職金なら退職所得控除を引いたうえで2分の1だけが課税対象になります。分離課税のため、他の所得と合算されて税率が上がることもありません。
社会保険料の対象にもならないため、会社と個人の合計負担で見ると差はさらに大きくなります。ただし支給できるのは退職という事実がある場合に限られます。
法人側では一度に大きな損金を作れる
数千万円規模の支給になることも多く、支給した事業年度の課税所得を大幅に圧縮できます。繰り延べ型の節税策で先送りしてきた利益を、この時期にぶつける設計が実務でよく使われます。
即時償却をした設備の売却益や、共済の解約手当金といった益金が立つ時期に合わせると、両者を相殺できます。出口設計の要になる制度です。
大きな支出をともなうため資金繰りの確認が必要
損金にはなりますが、支給する現金は実際に会社から出ていきます。数千万円の支給に耐えられる資金があるかを、支給時期の資金繰り表で確認してください。
原資を計画的に準備していない会社では、支給額を決めても払えないという事態が起こります。準備は数年単位で考える性質の対策です。
役員退職金の計算方法|功績倍率法

実務で最も使われるのが功績倍率法です。次の式で算定します。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 計算式 | 最終報酬月額 × 役員在任年数 × 功績倍率 |
| 最終報酬月額 | 退職直前の役員報酬の月額 |
| 役員在任年数 | 役員として在任した年数(1年未満は切上げが一般的) |
| 功績倍率 | 役職に応じた倍率。代表取締役で3.0倍前後が目安 |
最終報酬月額100万円・在任20年・功績倍率3.0倍の場合、100万円×20年×3.0=6,000万円が算定額になります。これはあくまで一つの目安であり、これだけで適正と認められるわけではありません。
功績倍率は法令で定められた数値ではない
3.0倍という数字がよく使われますが、これは過去の裁判例や裁決で用いられてきた目安であって法令上の基準ではありません。税務上は、同業類似法人の支給状況などから総合的に判断されます。
役職によって使われる倍率は異なり、代表取締役より下位の役職では低い倍率が用いられるのが一般的です。自社の実態に合った説明ができることが重要になります。
最終報酬月額が低すぎると算定額も小さくなる
退職直前に役員報酬を大きく下げていると、功績倍率法で計算される金額もその分だけ小さくなります。在任期間中の貢献に見合わない結果になることがあります。
この場合、平均功績倍率法ではなく1年当たり平均額法など別の算定方法が検討されることもあります。どの方法を使うかは個別事情によります。
功労加算を上乗せする場合は根拠を残す
特別な功績があった場合に功労加算を上乗せする例がありますが、加算の理由を説明できなければ不相当に高額と判断される要因になります。実務では算定額の30%以内といった水準が意識されることがあります。
何をもって特別な功績とするのかを、株主総会の議事録や退職金規程の中で具体的に記載しておいてください。
何をもって特別な功績とするのかを、株主総会の議事録や退職金規程の中で具体的に記載しておいてください。
損金算入が認められるための要件

金額の妥当性だけでなく、退職の事実と手続きの両方が必要になります。
退職の事実がなければ退職金にならない
形式的に役職を外れただけで実質的に経営に関与し続けている場合、退職の事実がないと判断され退職給与として認められないことがあります。分掌変更による打切支給を行う場合は、実質的に退職したと同様の事情があるかが問われます。
常勤から非常勤になった、取締役から監査役になった、報酬がおおむね50%以上減少したといった事情が判断の材料になります。名目だけの変更では認められません。
株主総会の決議が必要になる
役員退職金の支給には株主総会の決議が必要で、決議のない支給は損金算入が認められない可能性があります。議事録には支給額または算定方法、支給時期、支給方法を記載します。
退職金規程を整備しておくと、算定根拠を説明しやすくなります。規程と実際の支給額が食い違わないよう運用してください。
損金にできる時期は原則として決議をした事業年度
損金算入の時期は、原則として株主総会の決議等によって金額が具体的に確定した日の属する事業年度です。ただし実際に支払った事業年度に損金経理した場合は、その事業年度で損金算入することも認められています。
どちらの事業年度で損金にするかで税額が変わることがあります。利益の着地見込みを見て、顧問税理士と時期を決めてください。
退職所得控除と2分の1課税|個人側の仕組み

受け取る側の税負担が軽いのは、控除と2分の1課税と分離課税の3つが重なるためです。
| 勤続年数 | 退職所得控除額 |
|---|---|
| 20年以下 | 40万円 × 勤続年数(80万円に満たない場合は80万円) |
| 20年超 | 800万円 + 70万円 ×(勤続年数 − 20年) |
(退職金の額 − 退職所得控除額)× 2分の1 が課税対象になります。勤続20年で6,000万円を受け取る場合、控除額は800万円、課税対象は(6,000万円−800万円)×2分の1=2,600万円です。
他の所得と合算されない分離課税になる
退職所得は給与所得などと合算せずに計算するため、その年の役員報酬が高くても退職金の税率が引き上げられることはありません。「退職所得の受給に関する申告書」を提出していれば、源泉徴収で課税関係が完結するのが原則です。
申告書を提出していない場合は一律20.42%の源泉徴収となり、確定申告で精算することになります。提出漏れがないよう確認してください。
役員在任5年以下は2分の1課税が使えない
役員等としての勤続年数が5年以下である場合の退職手当等は特定役員退職手当等に当たり、2分の1を乗じる計算が適用されません。短期間で役員に就任して退職するケースでは、想定より税負担が重くなります。
役員以外の従業員についても、勤続5年以下の短期退職手当等は300万円を超える部分について2分の1課税が適用されません。
勤続年数の数え方で控除額が変わる
1年未満の端数は切り上げて1年として計算するため、退職日が数日ずれるだけで控除額が70万円変わることがあります。20年を超えるかどうかの境目では特に影響が大きくなります。
使用人から役員になった場合など、勤続年数の起算点の考え方が問題になることがあります。判断に迷う場合は事前に確認してください。
使用人から役員になった場合など、勤続年数の起算点の考え方が問題になることがあります。判断に迷う場合は事前に確認してください。
ここまでの内容を、御社の数字に当てはめて確認しませんか
役員退職金の決め方は、利益の水準・資金繰り・実行時期によって最適な判断が変わります。決算書と今期の見込みをもとに、適用できる制度と手続きの流れを具体的にご案内します。
2026年1月から始まる退職所得課税の見直し

受け取る側に影響する改正が2026年1月1日から始まります。DCの一時金を併用する場合は特に確認が必要です。
確定拠出年金の一時金との調整期間が広がる
確定拠出年金の老齢給付金を一時金で受け取る場合、退職手当等を受け取った年から前9年内であれば退職所得控除の調整の対象になります。従来は前4年内が対象で、いわゆる5年ルールが10年ルールへ広がる形です。
役員退職金と企業型DCやiDeCoの一時金を別々の年に受け取って控除枠を二重に使う設計が、これまでより難しくなります。受取時期の設計は改正後の前提で組み直してください。
退職所得の源泉徴収票の提出範囲が広がる
2026年1月1日以後に支払う退職手当等について、税務署へ提出する源泉徴収票の対象が役員以外の受給者にも広がります。従来は法人の役員に係るものが提出対象でした。
支給する会社側の事務が増えます。給与計算や年末調整の担当者と、提出書類の範囲を事前に確認しておいてください。
支給までの流れ|株主総会から税務処理まで

順序を守らないと損金算入が否認されるおそれがあります。
退職金規程を先に整備しておく
支給の直前に規程を作ると、その支給のために作ったものと見られ算定根拠としての説得力が弱くなります。平時のうちに算定方法と功績倍率を定めておくのが理想です。
規程がある場合でも、実際の支給額が規程と食い違っていると意味がありません。規程と運用を一致させてください。
議事録に算定根拠まで残す
株主総会の議事録には支給額だけでなく、どの算定方法でどう計算したのかまで記載しておくと税務調査での説明が容易になります。支給時期と支給方法も明記してください。
分割支給とする場合は、その理由と各回の金額・時期を決議の段階で明確にしておく必要があります。
源泉徴収と申告書の受領を忘れない
支給時には退職所得の源泉徴収が必要で、受給者から「退職所得の受給に関する申告書」を受け取っておく必要があります。提出がないと一律20.42%の源泉徴収になります。
2026年1月1日以後の支給からは源泉徴収票の提出範囲が広がる点にも注意してください。
原資をどう準備するか

数千万円規模の支出になるため、数年単位の準備が前提になります。主な選択肢は次のとおりです。
| 方法 | 特徴 | 留意点 |
|---|---|---|
| 内部留保 | 利益を蓄積して現金で備える | 利益に課税されたあとの資金になる |
| 法人保険 | 解約返戻金を原資に充てる | 2019年通達で資産計上が原則 |
| 経営セーフティ共済 | 掛金は損金、解約手当金を充てる | 総額800万円まで。再加入に制限あり |
| 設備の売却 | 即時償却資産の売却益をぶつける | 売却益と退職金の時期を合わせる |
繰り延べ型の対策は退職金の時期に合わせる
即時償却や共済は解約や売却の時期に利益が立つため、役員退職金という大きな損金が出る事業年度に合わせると相殺できます。これが繰り延べ型の対策に意味を持たせる最も実務的な設計です。
逆に言えば、退職の時期が読めないまま繰り延べだけを積み上げると、出口で税負担が集中します。おおよその勇退時期を決めてから設計してください。
法人保険は2019年の通達改正後のルールで判断する
最高解約返戻率の水準に応じて資産計上する割合が定められており、以前のように支払保険料の全額を損金にできる商品は限られています。保障の必要性がないまま原資づくりだけを目的に加入すると、支払額に見合いません。
解約返戻金は益金になります。返戻率のピーク時期と退職予定時期が合っているかを、加入前に必ず確認してください。
よくある失敗と税務調査リスク

否認されると超過部分が損金にならず、法人税の追徴につながります。
金額の根拠を説明できない
功績倍率法で計算しただけで根拠資料がないと、同業類似法人と比べて不相当に高額と判断される可能性があります。規程、議事録、算定書をセットで残してください。
特に功労加算を上乗せしている場合は、その功績の内容を具体的に説明できることが重要になります。
退職の事実が実質的に伴っていない
代表を退いた後も実質的な意思決定を続けている場合、退職の事実がないとして退職給与と認められないおそれがあります。分掌変更による打切支給では、報酬の減少幅や関与の度合いが確認されます。
肩書きだけを変えて実態が同じという状態が最も危険です。取引先への通知や決裁権限の移譲まで含めて、実態を伴わせてください。
資金繰りを崩してまで支給してしまう
損金の大きさに目が向いて支給額を決めると、納税資金や運転資金まで流出して会社の資金繰りが厳しくなります。分割支給という選択肢もありますが、その場合は決議の段階で条件を明確にしておく必要があります。
支給後の資金繰り表を作り、少なくとも1年先まで問題がないことを確認してから金額を確定してください。
役員退職金の決め方で迷ったら、実行前にご相談ください
要件の確認漏れや期限切れは、後からでは取り返せません。決算日を迎える前に論点を洗い出しておけば、選べる打ち手が広がります。ご相談は無料です。
役員退職金に関するよくある質問

実務へ落とし込むときに、相談として多く寄せられる論点をまとめます。
役員退職金はいくらまで支給できますか?
法令上の上限はありませんが、不相当に高額と判断された部分は損金になりません。
法令で上限額は定められていません。実務では最終報酬月額×在任年数×功績倍率で算定し、代表取締役で功績倍率3.0倍前後が目安とされます。ただし不相当に高額な部分は損金になりません。同業類似法人の状況などから総合的に判断されるため、算定根拠を書面で残すことが重要です。
功績倍率3.0倍なら必ず認められますか?
3.0倍は目安であって基準ではなく、会社の規模や職務内容から個別に判断されます。
認められるとは限りません。3.0倍は過去の裁判例などで用いられてきた目安であり、法令上の基準ではありません。会社の規模、役員の職務内容、同業類似法人の支給状況などから個別に判断されます。
退職金はいつの事業年度の損金になりますか?
原則は金額が確定した事業年度ですが、支払った事業年度に損金経理する方法も認められています。
原則として株主総会の決議等により金額が具体的に確定した日の属する事業年度です。ただし実際に支払った事業年度に損金経理をした場合は、その事業年度で損金算入することも認められています。利益の着地見込みを見て時期を選んでください。
役員を退任せず報酬だけ下げて退職金を出せますか?
分掌変更による支給は可能な場合がありますが、実質的に退職したと同様の事情が必要です。
分掌変更による打切支給として認められる場合がありますが、実質的に退職したと同様の事情が必要です。常勤から非常勤になる、報酬がおおむね50%以上減少するといった事情が判断材料になります。肩書きだけの変更では認められません。
2026年1月から何が変わりますか?
DC一時金との調整期間が前9年内へ広がり、受取時期の設計を組み直す必要があります。
確定拠出年金の一時金を受け取る場合の退職所得控除の調整期間が、前4年内から前9年内へ広がります。また退職所得の源泉徴収票を税務署へ提出する対象が、役員以外の受給者にも広がります。DCと役員退職金を併用する予定がある場合は受取時期の設計を見直してください。
原資はどう準備すればよいですか?
解約や売却で利益が立つため、退職金を支給する事業年度に時期を合わせるのが基本です。
内部留保、法人保険の解約返戻金、経営セーフティ共済の解約手当金、即時償却資産の売却益などが使われます。いずれも解約や売却の時期に利益が立つため、退職金という大きな損金が出る事業年度に合わせる設計が基本になります。



