M&A後の繰越欠損金に利用制限がかかる場合|欠損法人買収の税務

赤字会社を買収して黒字事業を移せば、対象会社の繰越欠損金で自由に所得を相殺できるわけではありません。M&Aにより特定支配関係が生じた欠損等法人で、5年の判定期間中に事業の大幅な変更等の一定事由が生じると、旧欠損金の利用が制限されることがあります。
株式譲渡で欠損金を持つ法人の支配権を取得し、買収後に事業・資産・人員を変更する場面を扱います。制度の適用は取引条件で変わるため、契約前と申告前に税理士等へ確認してください。
- 株主異動と特定支配関係の日付
- 青色申告欠損金の発生年度別明細
- 買収前後の事業・従業員・資産の変化
- 収益計画と欠損金制限の別ケース
買収した会社の繰越欠損金は原則と制限を二段階で確認する

欠損金が申告書に残っていても、買収後の組織変更による個別制限を確認します。株式取得だけで直ちに全面制限となるわけではなく、特定支配関係、買収前欠損金等、法定期間、一定事由を順に確認します。
まず欠損金の有効期間と年度別残高を確定する
過去申告書、別表七、更正処分、繰戻し還付の有無から、青色欠損金の発生年度と未使用額を復元します。 帳簿上の累積赤字を税務上の利用可能額としません。
次に欠損等法人の利用制限の対象かを判定する
特定支配関係を持たれた法人で、その前の欠損金や含み損資産があるときは、法人税法57条の2の判定表を作ります。 「株式譲渡だから欠損金はそのまま」と結論せず、買収後制限を別途判定します。
特定支配関係が生じた欠損等法人に対する繰越欠損金の利用制限に関する取扱いが示されています。
欠損等法人の利用制限額は、申告書上で年度別欠損金と対応させて計算します。
特定支配関係は50%超の支配とその発生日を確定する

契約締結日、株式引渡日、議決権が移る日が異なる案件では日付が特に重要です。
一の者と特殊関係者による支配を合算する
直接保有だけでなく、関係者と一体となった議決権保有が50%超となるかを、買収前後の資本関係図で判定します。 買主単体の持株比率だけで特定支配関係を判定しません。
支配関係発生日から5年間の終了日を設定する
株式取得のクロージングにより支配が生じた日を起点とし、原則5年間のモニタリング期間をカレンダーに置きます。 期間計算は契約書の表紙ではなく、実際に支配が生じた日から行います。
買収後5年間の事業変更を継続的にモニタリングする

判定は買収日の一度だけではなく、事業内容や資産構成が変わる都度に行います。
旧事業の大幅な縮小・廃止と新事業の開始を追跡する
対象会社が買収前に行っていた事業の従業員、設備、売上、主要顧客の変化を四半期ごとに確認します。 事業目的を定款に追加した日だけでなく、実際の事業活動の変化を見ます。
グループから黒字事業を移す計画は事前に制限を検証する
事業譲渡、会社分割、従業員出向、顧客契約移管により、欠損法人に収益力を集める案は、法定事由への該当を実行前に確認します。 税務判定後に取引を後付けで分割せず、実行前に全工程を一つの案として検討します。
欠損等法人の買収後に新たな事業から生じる所得と旧欠損金を相殺する租税回避を防ぐ制度が解説されています。
法人税法57条の2は、欠損法人の買収と収益事業の移転による租税回避へ対応する個別的な防止規定です。
出典:国税庁 課税関係訴訟資料
一定の借入れ・資産取得は法定の組合せと規模基準で判定する

単なる大口借入れや資産取得だけで直ちに制限されるわけではありません。旧事業の廃止・縮小、新事業、特定支配者等からの資金、取得資産の関係を法定の組合せと規模基準で判定します。
買収後の新規借入れの資金使途を契約単位で追う
銀行借入れ、親会社借入れ、社債による調達額と、土地・設備・事業取得への充当関係を資金トレース表にします。 調達額だけを見ず、借入人、使途、取得資産、新事業との関係を確認します。
対象資産の規模と取得目的を取締役会資料に残す
買収後に大口資産を取得するなら、旧事業の維持更新か、新しい収益源への投資か、第三者への転売目的かを説明します。 資産取得の税効果に欠損金利用を入れる前に、特定事由への該当を判定します。
利用制限が発動すると買収前の欠損金と含み損の両方が問題になる

青色欠損金だけをデューデリジェンスの対象にすると、資産の含み損制限を見落とします。
支配関係発生前の欠損金を年度別に切り出す
対象会社の欠損金を、支配関係発生前と発生後に分け、利用制限が発動した場合の対象額を試算します。 欠損金の総額に一律の割合を掛けず、発生年度と適用事業年度を対応させます。
含み損資産は買収日の時価・簿価差を固定する
土地、有価証券、減価償却資産、債権の含み損を、買収日の状態で記録し、後日の譲渡・評価・除却と紐づけます。 買収日時点の評価書がなければ、後日の損失のうち制限対象を切り分けられません。
欠損等法人の適用事業年度では、一定の欠損金と資産譲渡等損失額に制限が設けられています。
出典:e-Gov 法人税法
特定支配関係、新たな事業の判定、対象資産に関する実務上の取扱いが定められています。
出典:国税庁 法人税基本通達
繰越欠損金の税効果は利用制限ありとなしの二案で試算する

買収価格に欠損金の税効果を全額上乗せすると、制限発動時に投資回収が崩れます。
課税所得5,000万円に対する相殺額をケース別に置く
比較例で、買収前欠損金2億円、買収後の課税所得5,000万円、仮定税率30%と置きます。制限なしなら今期の相殺額は5,000万円、税負担の軽減効果は概算1,500万円です。全額制限なら相殺額とその軽減効果は0円となるため、この差を買収価格と納税資金へ反映します。
例えば繰越欠損金2億円、買収後所得5,000万円でも、制限がかかれば想定した相殺ができない場合があります。 節税額は欠損金残高ではなく、実際に相殺できる所得と税率から計算します。
制限ケースでも債務返済できる価格を買収上限とする
株主価値の算定では、欠損金を全額使える基本ケースと、一定期間使えない下振れケースを置きます。 買収後の返済負担は、税金軽減がないケースで耐えられるかを確認します。
欠損金を理由とするアーンアウトは税効果の条件を契約に書く

将来の節税額を買主が独自に判定する条項では、紛争が起きやすくなります。
追加対価の計算に使う税額・期間・証憑を定義する
買収後に実際に削減できた法人税等、利用期限、利用制限がかかった場合の除外、申告書の開示手続を最終契約に定めます。 欠損金残高×表面税率を、無条件の追加価格にしません。
売主の表明保証は欠損金の存在と利用可能性を分ける
過去の適法な申告と残高の存在は売主が表明できても、買収後の事業変更による利用制限は買主の行為に左右されます。 売主の過去申告責任と、買主のクロージング後運営責任を契約上切り分けます。
買収後は5年間の税務ゲートを投資審査フローに組み込む

買収時の税務意見書だけでは、後年度の事業譲渡や大口投資を拾えません。
対象会社の重要取引に欠損金制限チェック欄を追加する
事業譲渡、合併、会社分割、大口借入れ、設備投資、従業員移管を承認する前に、法人税法57条の2の影響を税務部門が確認します。 税務部門への事後報告ではなく、投資決定前の承認ゲートにします。
5年経過後も通常の欠損金利用要件を確認する
特定支配関係後の5年が経過しても、欠損金の有効期間、青色申告、所得に対する控除上限など通常の制限は残ります。 「5年経てば全額自由に使える」とせず、残存期間と年度ごとの控除限度を改めて計算します。
繰越欠損金は別表七等により発生年度、控除額、翌期繰越額を管理します。
出典:国税庁 法人税申告手続
M&Aの条件設定では、想定する税効果や専門家の助言範囲を含め、重要事項を当事者間で確認します。
M&A後の繰越欠損金の利用制限でよくある質問

買収した赤字会社の欠損金はすぐ使えますか?
通常の利用要件に加え、特定支配関係後の一定事由による利用制限を確認します。
50%ちょうどの取得でも特定支配関係ですか?
判定は50%超が基準ですが、特殊関係者の保有も含むため、資本関係全体を確認します。
5年経てば欠損金は全額使えますか?
この個別制限の判定期間は終了しますが、有効期間、青色申告、年度ごとの控除上限は別途確認します。
株式を取得するだけなら利用制限はかかりませんか?
支配関係の発生だけで直ちに全てが制限されるわけではないものの、その後5年間の事業変更等を継続監視します。

