個人事業主の節税|控除の積み上げ順と所得別の効き方

経費になりそうなものを探して領収書を集めているが、税額が思ったほど減らない。周りからは共済やiDeCoを勧められるものの、どれをどの順で使えばよいか分からず、結局なにもしないまま確定申告の時期を迎えてしまう。
個人事業主の税負担は、経費を増やすより控除を積み上げるほうが確実に減ります。所得税は超過累進税率なので、同じ控除でも所得が高いほど効きます。青色申告特別控除65万円のように現金が出ない控除から順に積み、そのうえで共済やiDeCoを検討する形が基本です。
この記事でわかること
- 青色申告特別控除65万円・55万円・10万円の分かれ目
- 超過累進税率だから控除の効き方が所得で変わる理由
- 現金が出ない控除から順に積み上げる考え方
- 小規模企業共済・iDeCo・経営セーフティ共済の使い分け
- 所得400万円・800万円・1,500万円で減る税額の試算
- やりすぎると否認される線引き
経費を増やすより控除を積む

節税というと経費探しから入りがちですが、順番が逆です。現金が出ていかない控除を先に積むほうが、手元に残る金額は増えます。
経費は現金が出ていく
10万円の経費を増やしても、戻ってくるのは税率分だけです。
課税所得が330万円から695万円までの帯なら所得税は20%です。住民税10%を足しても、10万円使って戻るのは3万円ほど。手元からは7万円が消えます。
事業に必要な支出なら当然計上しますが、税金を減らすためだけに買うと現金が減ります。ここを取り違えると資金繰りが悪くなります。
控除は現金が出ないものがある
青色申告特別控除の65万円は、1円も使わずに課税所得を65万円下げられます。
帳簿の付け方と申告方法を変えるだけで得られる控除です。同じ帯なら所得税と住民税で約19.5万円の差になります。
同じ効果を経費で出そうとすれば65万円の支出が要ります。まずここを取り切るのが出発点です。
積む順番は現金の出方で決まる
現金が出ない控除、支出はあるが資産として残る控除、消えていく経費の順に検討します。
青色申告特別控除や各種所得控除は現金が出ません。小規模企業共済やiDeCoは支出がありますが、将来受け取れる資産として残ります。
純粋な経費は消えて戻りません。この順序を守るだけで、同じ税額でも手元資金がまったく違ってきます。
所得税(超過累進税率)と復興特別所得税(基準所得税額の2.1%)だけで計算しています。住民税(所得割はおおむね10%)と国民健康保険料は自治体で異なるため含めていません。実際の手取り効果はこの試算より大きくなります。
青色申告特別控除65万円を取り切る

最初に押さえるのがここです。同じ帳簿でも、申告のやり方ひとつで10万円分の差がつきます。
55万円までは複式簿記と期限内申告
事業所得または不動産所得があり、複式簿記で記帳し、貸借対照表と損益計算書を添付して期限内に申告することが条件です。
現金主義による所得計算の特例を選んでいると使えません。所得金額が55万円未満なら、その金額が控除の限度になります。
この時点で会計ソフトを使っていれば、複式簿記の要件はほぼ満たせます。
65万円にはe-Taxか優良な電子帳簿が必要
55万円の要件に加えて、e-Taxで期限内に提出するか、優良な電子帳簿の要件を満たして保存することが必要です。
e-Taxのほうが手間は小さくなります。確定申告書と貸借対照表、損益計算書を期限までに電子送信すれば足ります。
電子帳簿保存を選ぶ場合は、仕訳帳と総勘定元帳を優良な電子帳簿の要件で保存し、あらかじめ届出書を出す必要があります。
要件を外すと10万円まで落ちる
複式簿記や期限内申告を外すと、控除は10万円まで下がります。
期限を1日でも過ぎると55万円と65万円は使えません。所得が高い人ほど、この差は大きくなります。
申告期限は毎年3月15日です。e-Taxの送信が期限内に完了しているかまで含めて確認してください。
| 控除額 | 主な要件 |
|---|---|
| 65万円 | 55万円の要件+e-Taxでの期限内提出、または優良な電子帳簿の保存 |
| 55万円 | 複式簿記+貸借対照表・損益計算書の添付+期限内申告 |
| 10万円 | 上記に該当しない青色申告者 |
申告期限は毎年3月15日です。e-Taxの送信が期限内に完了しているかまで含めて確認してください。
所得で効き方が変わる|超過累進税率

同じ控除でも、所得の水準で戻る金額がまったく違います。ここを知らないと打ち手の優先順位を間違えます。
課税所得の帯ごとに税率が変わる
所得税は課税所得195万円までが5%、4,000万円超で45%まで段階的に上がります。
超過累進なので、帯を超えた部分だけに高い税率がかかります。課税所得500万円の人が全額20%で課税されるわけではありません。
控除を増やすと、いちばん上の帯から順に削られます。だから控除の効果は「その人の最高税率」で考えます。
住民税と復興特別所得税も乗る
所得税に加えて、住民税の所得割がおおむね10%、復興特別所得税が所得税額の2.1%かかります。
課税所得が330万円から695万円の帯なら、所得税20%と住民税10%で実質30%ほどです。10万円の控除で3万円が戻る計算になります。
国民健康保険料も所得に応じて決まるため、控除を増やすと保険料も下がる場合があります。自治体によって計算が違うので、この記事の試算には含めていません。
課税所得が低いなら現金を使う節税は不要
課税所得195万円までなら所得税は5%にとどまります。
この帯で10万円を支出しても、所得税と住民税を合わせて1.5万円ほどしか戻りません。現金が出る節税策は割に合いません。
まずは青色申告特別控除と所得控除の漏れを潰し、事業の利益を伸ばすほうが先になります。
| 課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
|---|---|---|
| 1,000円〜1,949,000円 | 5% | 0円 |
| 1,950,000円〜3,299,000円 | 10% | 97,500円 |
| 3,300,000円〜6,949,000円 | 20% | 427,500円 |
| 6,950,000円〜8,999,000円 | 23% | 636,000円 |
| 9,000,000円〜17,999,000円 | 33% | 1,536,000円 |
| 18,000,000円〜39,999,000円 | 40% | 2,796,000円 |
| 40,000,000円以上 | 45% | 4,796,000円 |
まずは青色申告特別控除と所得控除の漏れを潰し、事業の利益を伸ばすほうが先になります。
共済とiDeCoで資産として積む

支出はありますが、消えずに将来受け取れる形で残ります。課税所得が330万円を超えたあたりから検討する価値が出てきます。
小規模企業共済は年84万円まで所得控除
掛金は月1,000円から7万円まで、全額が小規模企業共済等掛金控除になります。
年間で最大84万円です。廃業や退任のときに受け取り、一括なら退職所得、分割なら公的年金等の雑所得として課税されます。
ただし任意解約で納付月数240か月未満だと元本割れします。長く続けられる金額に抑えるのが前提です。
iDeCoは第1号被保険者なら月6.8万円
国民年金の第1号被保険者は、国民年金基金等と合わせて月6.8万円が上限です。
こちらも全額が小規模企業共済等掛金控除になります。小規模企業共済とは別枠なので、両方を使えば控除額はさらに積み上がります。
2026年12月からは第1号加入者の上限が月7.5万円へ引き上げられる予定です。増額の余地が広がります。
経営セーフティ共済は必要経費になる
掛金は月5,000円から20万円、掛金総額800万円が上限です。
所得控除ではなく事業所得の必要経費として落ちます。年240万円まで前納でき、40か月以上納めれば自己都合の解約でも掛金は全額戻ります。
ただし解約手当金は受け取った年の収入になります。廃業や大きな支出の年に合わせるなど、出口を決めてから入ってください。
| 制度 | 上限 | 税務上の扱い | 出口 |
|---|---|---|---|
| 小規模企業共済 | 月7万円(年84万円) | 小規模企業共済等掛金控除 | 一括は退職所得 |
| iDeCo(第1号) | 月6.8万円 | 小規模企業共済等掛金控除 | 一括は退職所得 |
| 経営セーフティ共済 | 月20万円(総額800万円) | 必要経費 | 解約手当金は収入 |
ただし解約手当金は受け取った年の収入になります。廃業や大きな支出の年に合わせるなど、出口を決めてから入ってください。
家族に給与を払う|青色事業専従者給与

家族が事業を手伝っているなら、給与として必要経費にできます。所得を分散できるので、累進税率の下では効果が大きくなります。
15歳以上で6か月を超えて専ら従事していること
対象は生計を一にする配偶者その他の親族で、その年の12月31日現在で15歳以上の人です。
その年を通じて6か月を超える期間、事業に専ら従事していることが必要です。他に本業がある家族や、学校に通っている家族は原則として認められません。
実態が問われます。勤務時間や業務内容を記録に残しておくと、後から説明できます。
届出書を3月15日までに出す
経費にするには、青色事業専従者給与に関する届出書を3月15日までに提出します。
新規に事業を始めた場合や新たに専従者ができた場合は、その日から2か月以内が期限です。届出をしていないと1円も経費になりません。
届出に記載した金額の範囲内で支払う必要があります。増額するなら変更届が要ります。
金額は相当と認められる範囲まで
経費にできるのは支払った金額のうち相当であると認められる金額です。
仕事の内容や従事の程度、同業他社の水準に照らして過大と判断された部分は経費になりません。実態のない高額な給与は否認されます。
白色申告の場合は事業専従者控除となり、配偶者は最高86万円、15歳以上のその他の親族は最高50万円です。
| 区分 | 上限 | 届出 |
|---|---|---|
| 青色事業専従者給与 | 相当と認められる金額 | 3月15日までに届出書 |
| 白色の事業専従者控除(配偶者) | 最高86万円 | 不要 |
| 白色の事業専従者控除(その他親族) | 最高50万円 | 不要 |
白色申告の場合は事業専従者控除となり、配偶者は最高86万円、15歳以上のその他の親族は最高50万円です。
設備は40万円未満なら取得時に全額

パソコンや機材を買うなら、この枠に収まるかを先に確認します。青色申告者だけが使える特例です。
40万円未満を合計300万円まで
中小企業者等は、40万円未満の減価償却資産を合計300万円まで取得時に全額経費にできます。
従来の30万円未満から拡充されており、適用期限は令和11年3月31日までです。青色申告をしていることが前提になります。
1台または1組あたりで判定します。同じ機材を複数買っても、単価が40万円未満なら合計300万円の枠まで使えます。
10万円未満と20万円未満は別のルール
青色申告でなくても、10万円未満は取得時に全額、20万円未満は3年間で均等償却できます。
20万円未満の一括償却資産を選ぶと、償却資産税の対象外になるという利点があります。金額と目的で使い分けます。
40万円未満の特例を使った資産は償却資産税の対象になるため、地域によっては税負担が発生します。
申告書に摘要の記載が要る
個人事業主は青色申告決算書の減価償却費の計算欄に「措法28の2」と記載します。
この記載を忘れると特例が適用されません。会計ソフトを使っている場合も、出力された決算書を確認してください。
取得価額の証拠として、請求書や納品書は保存しておきます。
| 取得価額 | 処理 | 対象 |
|---|---|---|
| 10万円未満 | 取得時に全額経費 | すべての事業者 |
| 20万円未満 | 3年間で均等償却 | すべての事業者 |
| 40万円未満 | 取得時に全額経費(合計300万円まで) | 青色申告の中小企業者等 |
取得価額の証拠として、請求書や納品書は保存しておきます。
所得別に減る税額を試算する

青色申告特別控除65万円と小規模企業共済84万円、合計149万円を積んだ場合で比べます。控除が税率の境目をまたぐと、単純に最高税率を掛けた金額にはなりません。
課税所得400万円なら約21.9万円
149万円を引くと課税所得は251万円になり、20%の帯と10%の帯にまたがります。
400万円から330万円までの70万円が20%で14.0万円、330万円から251万円までの79万円が10%で7.9万円。合わせて21.9万円です。復興特別所得税を含めると約22.4万円になります。
最高税率20%を149万円に掛けた29.8万円にはなりません。境目をまたぐぶん目減りします。住民税を加えれば、さらに約14.9万円が減る計算です。
課税所得800万円なら約33.0万円
こちらも23%の帯から20%の帯へまたがります。
800万円から695万円までの105万円が23%で24.15万円、695万円から651万円までの44万円が20%で8.8万円。合わせて32.95万円です。復興特別所得税を含めると約33.6万円になります。
この規模になると、経営セーフティ共済も検討の対象に入ってきます。
課税所得1,500万円なら約49.2万円
この場合は149万円すべてが33%の帯に収まります。
149万円に33%を掛けた49.17万円がそのまま効きます。復興特別所得税を含めると約50.2万円です。
課税所得400万円の人と比べて2倍以上の効果になります。この帯まで来たら、法人化との比較も並行して検討する段階です。
| 課税所得 | またぐ税率 | 控除149万円で減る所得税 | 復興特別所得税を含む |
|---|---|---|---|
| 400万円 | 20%→10% | 約21.9万円 | 約22.4万円 |
| 800万円 | 23%→20% | 約33.0万円 | 約33.6万円 |
| 1,500万円 | 33%のみ | 約49.2万円 | 約50.2万円 |
控除149万円は、青色申告特別控除65万円と小規模企業共済84万円の合計です。控除で課税所得が下の帯へ入ると、その部分は低い税率で計算されるため、最高税率を掛けた金額より小さくなります。住民税(おおむね10%)を含めればさらに約14.9万円が減ります。
所得税(超過累進税率)と復興特別所得税(基準所得税額の2.1%)だけで計算しています。住民税(所得割はおおむね10%)と国民健康保険料は自治体で異なるため含めていません。実際の手取り効果はこの試算より大きくなります。
やりすぎると否認される線引き

個人事業主は事業と私生活の線が曖昧になりやすく、そこを見られます。
家事按分は根拠を示せる割合にする
自宅兼事務所の家賃や光熱費は、事業に使っている割合だけが必要経費です。
面積や使用時間など、後から説明できる基準で按分します。感覚で決めた割合は否認されやすくなります。
間取り図に業務スペースを書き込む、稼働時間を記録するなど、根拠を残しておいてください。
専従者給与は実態が問われる
届出を出していても、実際に6か月を超えて専ら従事していなければ認められません。
他に勤務先がある家族へ給与を払う形は、専ら従事しているとは言えません。金額の相当性も同時に見られます。
業務日報や勤務時間の記録を残し、同じ仕事を外注した場合の相場と比べて説明できる金額にしてください。
事業と関係のない支出は経費にならない
私的な支出を混ぜると、その部分だけでなく帳簿全体の信頼性が疑われます。
家族との飲食、私用の旅行、趣味の道具などが典型です。少額でも積み重なると印象が悪くなります。
迷ったら、その支出が売上にどうつながるかを言葉で説明できるかを基準にしてください。
税金を減らすためだけの支出は、現金が減るだけで終わります。事業に必要かどうかを先に判断し、必要なものを正しく計上する順序を守ってください。
個人事業主の節税に関するよくある質問

実務へ落とし込むときに、相談として多く寄せられる論点をまとめます。
いちばん効果の大きい節税は何ですか?
現金を使わない青色申告特別控除65万円が最優先です。
青色申告特別控除の65万円です。現金を1円も使わずに課税所得を65万円下げられます。複式簿記で記帳し、e-Taxで期限内に申告するだけで得られるため、費用対効果では他の打ち手を大きく上回ります。
課税所得が低くても共済に入るべきですか?
課税所得が低いうちは現金が出る節税は不要です。
急ぐ必要はありません。課税所得195万円までなら所得税は5%なので、10万円を支出しても所得税と住民税を合わせて1.5万円ほどしか戻りません。まず青色申告特別控除と所得控除の漏れを潰すほうが確実です。
小規模企業共済とiDeCoは併用できますか?
併用でき、上限は別枠です。
できます。どちらも小規模企業共済等掛金控除の対象ですが、上限は別枠です。小規模企業共済は月7万円、iDeCoは第1号被保険者なら国民年金基金等と合わせて月6.8万円で、2026年12月からは月7.5万円へ引き上げられる予定です。
家賃はどのくらい経費にできますか?
経費にできるのは事業に使っている割合だけです。
事業に使っている割合だけです。面積や使用時間など、後から説明できる基準で按分してください。間取り図に業務スペースを書き込む、稼働時間を記録するなど、根拠を残しておくと税務調査でも説明できます。感覚で決めた割合は否認されやすくなります。
家族に給与を払えば節税になりますか?
届出と6か月を超える専従が条件です。
青色事業専従者給与として必要経費にできます。ただし生計を一にする15歳以上の親族で、その年を通じて6か月を超えて専ら従事していることが条件です。3月15日までに届出書の提出も必要で、金額は相当と認められる範囲に限られます。
経費を増やせば増やすほど得ですか?
戻るのは税率分だけです。
違います。10万円の経費で戻るのは税率分だけで、課税所得330万円から695万円の帯でも所得税と住民税を合わせて3万円ほどです。残る7万円は手元から消えます。事業に必要な支出かどうかを先に判断してください。


